第10話 窓からの訪問

「オリバー、お前……なんてことするんだ!!」


「ごっ、ごめんなさい……でっでも、ぶつかってきたのはそっちからで……」


「ひどいわ、このドレスはエナメルのオーダーものなのよ」


「レディのせいにするなんて本当に最低ね!!」



 うーん、私が見る限りそのオリバーとかいう子が先に立っていただけで、勝手にぶつかっただけのようにも見えるけど……まぁ、いいか。



「王女様の前だぞ!! 不敬だ!!!!」


 え、私を巻き込まないでくれる?? むしろ面白くしてくれてありがたいっていうのに。


「えっ、王女様……君が……」


「まずは謝罪と挨拶でしょう!? もう、ヤナン!!どうしてオリバーを招待しているのよ!!」


「パパ達が勝手に招待したんだろ!! 一応、こいつも公爵だからな」


「でも、私生児じゃない!!」


「えーーん、もう嫌だぁ。お家帰るわ」



 ふふっ、所詮は子どもね。さっきまでかしこまっていたけど、随分と本性が簡単にでてきたっていうか、可愛らしいこと。まぁ大人達が慌てて出てきたようだし、この流れに乗ってみようかしら。




「リア様!! 何事でしょうか」



 子どもそっちのけで会食していた大人達はどうやら何が起こったか見ていないようね。あることないことあの3バカが騒いでるみたいだけど、お開きにしてくれるきっかけを作ってくれた彼にはお礼くらいはしておかなきゃよね。



「えぇ、どうやら私に緊張した皆さんが……特にそこのお嬢さんがはしゃぎ過ぎたようで、彼にぶつかってしまったようですの」


「っ!?」


「王女様、私はしゃいでなんて……」


「メマリ、反論なんてみっともない真似おやめなさい」


「お母様……うぅっ」



 ふふ。息子、娘の言うことをまともに信じていた大人たちが固まっちゃっているわ。


「それに、舞踏会なんていうから踊りの練習をしてきましたのに、お喋りばかりで疲れてしまいましたわ」


「そっ、それは、うちの息子が王女様にとんだ失礼を……」


「父上っ!! 僕は父上のご指示通りちゃんと王女様に親切にしようと……」


「迷惑と親切の違いも分からないのか、それにお前が騒ぎ立ててどうするっ!!」


「それは、オリバーが……」



 真っ青になっているのはどうやらヤナンの父親かしら、公爵家が主催した場でトラブルが、それも私に恥をかかせたとなればさすがに動揺するわよね。


「えぇ、それに……私のことをいきなりお友達だなんて……私と初めから対等な関係で、つい驚いてしまって……」


「あっ……」


「ナヤリーンちゃん!! あなたそんなことを……」


「ママ、それは……」


「外ではお母様と呼びなさいと言っているでしょう」



 まぁ、こんなもんか。泣きべそをかく3人の様子に満足していると、オリバーの視線に気づく。


 そういえば、他の子には親がかけつけているっていうのに、執事みたいな従者だけなのかしら。まぁ、私もそうなんだけど……


「おっ、王女様、あの、あの……」


「…………あなた公爵なのでしょう、もっと堂々としなさい。弱い振舞いは下に見られて当然でしょう」


「っ!?」



 周りには聞こえない小声で話す。



「コード、城へ帰るわ」


「そうですね、このような状態では舞踏会は無理でしょうし、馬車を手配致します」


 まぁ、これで当分はパーティに行かなくても大丈夫そうね。



 




 

「リア様!! 舞踏会で騒ぎに巻き込まれたとか!! お怪我はございませんか!?」


 先に知らせを出していたコードのおかげで、シシラから全身チェック、そのあとかけつけてきたパパによる長い事情聴取を受けることになってしまった。後日改めて謝罪に来たヤナン達の親は追い返されとか。







「ねぇ、シシラ。お母様はがっかりするかしら」


 清々すると思っていたが、唯一気がかりなことだ。


「王妃様にも報告は届いているはずですが、リア様がご無事だと分かって安心されているはずですよ」


「そう……」


「おやすみなさいませ」


「おやすみ」


 シシラが部屋から出ていったことを確認し、ケロベロスを呼ぶ。


「ベロス、私をお母様の部屋まで連れていって」


「わふん!!!!」


 背中に乗り、窓から飛び出す。魔力で壁をもあっという間にかけ上がってくれたおかげで、すぐに着いた。この時間なら寝ているはず。更に強くなっていく咳のため、強い薬を飲み睡眠時間が長くなったと聞いている。


「……お母様」


 本物の聖女ではない私には病を癒すことは出来ない。あの時も、偶然が重なっただけで私の力ではない。


「ん、リア??」


「っ!!??」


 え、起きた!!?? えっと、薬のせいでぼんやりしているようね。娘が高い部屋にある窓から入ってきたなんて、言い訳のしようがないわ。ケロベロスも、巨大で頭が3つあるだけで、魔力のないただの犬みたいになったって思われているはずなんだから。


 護衛として側に置くことを許されてはいるが、皆が浄化したと思い込んだあの日から、魔力でその見た目を軟化させていた。本来のむき出しの牙に鋭い爪はなくなり、目や耳は丸く可愛らしく見せている。旺盛な食欲と図体ばかりがどんどん大きくなることを除けば、猛獣よりも可愛らしいとすら思っている者もいるはずだ。だが、今は魔力を使う為本来の姿になっているから、気づかれたら大問題だわ。




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