第9話 ふさわしい相手

「きゃああああああ!!!! 素敵です!!!!」


 シシラは朝から興奮した様子だ。普段からドレスは着ているものの、舞踏会なんてパーティは1歳のあの時以来だ。子どもといっても、今後のつながりを決めることもあってか、そんな気軽なものじゃないはず。王女の格を見せつけようと意気込む皆の気合いを感じる。今まで動きやすさ重視でドレスを選ばせていたが、今回はそうもいかない。重々しい豪華なドレスに、子どもだというのにオーダーで作らせた輝く宝石のアクセサリー…………素敵ですって?? 当たり前でしょう。だけど、つまらないわ……魔族の時なら、欲しいと思うものは自分で奪ってきたのだから、与えられるのは好きじゃない。


「…………」


「お気に召しませんか??」


「いえ、大丈夫よ。慣れていないだけ」


 本音は言えないけどね。今は王女で聖女なんだから。まぁ、この重いドレスだと動きにくそうだから逃げ出すのに邪魔、だなんて言えないわね。



「行きましょう」


 はぁ、気が重いわ。





 会場は公爵家で開かれるよう。まぁ、どうせ全て私のものになるのだし、名前なんて覚える必要なんてないのでしょうけど。


「では、リア様。どうぞ足元にお気をつけて」


「…………1人で降りれるわよ」


「リア様、お分かりかと思いますがこれは舞踏会でございます。子どもといえど格式高い家柄の将来を背負う面々がお集まりになられた……」


「分かったわ」


 エスコート役はパパがするとダダをこねられたが、あれでも王だ。そんな時間も自由もあるはずもなく、コードがその役を担う。


――あの方って……


――嘘っ!? 本当に王女様!!??


――違うわ、聖女様よ!!


――でもまだ聖女として何もしてないんでしょ、王女様と呼ぶべきじゃない??



 あぁ、子どもって言っても所詮はあの大人たちの子よね。陰から見つめないで直接言いにきたらどうなの!? もちろん、消すけどね。



「これは、リア王女様!! 殿下の祝福があらんことを。ようこそ、我が公爵家の舞踏会へ」


「…………」


「公爵家の跡継ぎ、ヤナン様でございますよ」


 コードが小声でサポートと挨拶を返すようにと促す。


 分かってるわよ。でもこちらが名乗らなくても私の名前知っているし、礼儀正しく挨拶しているようであちらは名乗ってないけれど!? 自分の名前は知ってもらっていて当然とでも思っているのかしら!? それとも、私に名前を聞かれることで周りに何かアピールでもしたいのかしら。


「…………」


「リア様!!」


 あくまでも小声で催促される。この舞踏会は大人はあくまでもサポートのみ、前へ出てはならない。


 仕方ないわね。


「招待ありがとう。初めてでつい緊張してしまっていて……」


「そうですよね!! 王女様はこのような場が初めてだとお伺いしております。宜しければこの僕がご案内させていただきます」


 ふむ。さすが公爵家の跡継ぎって感じね。子どもとは思えない振る舞いだわ。でもこの方法はいいわね。緊張しているってことにして、早々に退散出来るかもしれないわ。



「そう、ありがとう。ええと……」


「あの……自己紹介が遅れました。ヤナンと申します」


「えぇ、宜しく」



 立場の違いはしっかりとしておかないとね。




 いつのまにかコードも他の付添人と同様に、少し離れたテーブル席へと移動している。ヤナンの案内で、他の子ども達も紹介される。



「初めまして、王女様!! 殿下の祝福があらんことを……ウフフ、ナヤリーンと申します。聖女様でもあられるとか!! 素敵ですわ」


「私はメマリと申します。殿下の祝福があらんことをお祈り致します」


「2人とも侯爵家の優秀なメンバーです。今回招待した者の中でも特に王女様に相応しいかと」



 他にいる子ども達に軽く目をやり、丁寧に話しているが所詮は子ども。


 自分たちは優秀ってところを強調するなんて、ずいぶんな自信だこと。魔族は他の物を牽制けんせいする条件はただ一つ、強さのみよ。家柄だけじゃ戦えないけれど、人間って面白いものね。


「…………えぇ、宜しく」



「王女様は緊張されているようなんだ」


「まぁ!! 王女様ったら、可愛らしいのですね。大丈夫です、私たちはもうお友達ではありませんか」


「そうですわ、なんでもお聞きになって下さい。あ、そうですわ!! あちらのデザートは私の家が取り寄せている特別なフルーツを使っていて……」



 ん?? この子たち、私に何を言っているの……人間の、それも子どもごときがこの私にマウントを取っているとでも!!?? ケロベロスがいれば、今の失言で首ごと食いちぎられているところよ。


 連れていきたがったが、どうしてもダメだと城へ残してきたことを少し後悔する。いい加減に黙りなさいと、口を開きかける。



「きゃあっ!! 何をするのよ」


「え、あ……ごめんなさい」


「王女様お下がりください」


 話に夢中になりながらフルーツを取ろうとしたメマリは、他の子にぶつかってしまったようだ。



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