倒産してしまった小さな企業の元社員が、迷惑をかけた社内外の人々に謝罪して回っていく様子を描く本作。
それなりにうまく世を渡ってきたはずの主人公・逸見さんが、倒産の主原因を作った冴えない同期・前追さんの世話を焼きながら、さまざまな人の元へと後始末に訪れます。
一見するとロードムービーのような構造の本作は、人間の醜さや卑しさ、世の中の無情を描き出していきます。
クズキャラの造形に定評のある作者さまが、今回はなんとクズ側の人を主人公に据えて物語を綴られました。
こういう捻くれたタイプの人が、どんなふうに物を見るのか。一人称視点で切り取られていく人間関係や物事の状況に、ものすごい説得力があります。
親切のように見せかけて実は悪辣で底意地の悪い逸見さんに対し、前追さんの愚鈍なほどの純粋さと善性が際立ちました。
何が視界に入って、何を見落とすのか。
何かを良しとする判断基準がどこにあるのか。
持って生まれた性質に加え、それまで辿ってきた生い立ちによって、人それぞれ違います。
正反対と言える二人の謝罪行脚の果て、逸見さんはどんな景色を見るのでしょうか。
巧みな筆致で紡がれる、リアルな人間模様。
このざらついた読後感は、なかなか味わえるものではないでしょう。
苦い読み口の物語をお好みの方におすすめしたい作品です。
作者さまはいつも全力ですが、今回も角度を変えて全力です。
絶対いいカーブがグローブにおさまるでしょう。
純文学ってなにか、説明ばかりするのと、実際に小説にするのとでは重さも軽さも異なると思います。
大学院にいたとき、重い病気となり、寝たきりになりました。
休学しました。
様々に諦めていたとき、婚約者と結婚してなんの光も感じ難くなっておりました。
ベッドまで薬と水を持ってきてくれた夫と結婚式はできないという医学的診断。
恐ろしいことに関節が動かなくなりました。
休学して復帰したときの私の気持ち、あたためていましたが、それかも知れない。
要するに、上っ面ではない、本作品。
キャラクターに寄り添うと、じいんとします。
是非お立ち寄りください。