他人の彼氏を奪うのって、最高に気持ちいい。

夜道に桜

第1話

最初に‥


胸糞注意です。

苦手な方はここでバックした方が良いです。

書いててムカムカしたので、、



——————————



 たぶん、最初に惹かれたのは――声だった。


 ゼミの班分けでたまたま一緒になった高槻悠真。地味すぎず、でも派手でもなく、授業もちゃんと聞いてて、適当に人と話して笑う。

 目立たないけど、周りを穏やかにする、静かな空気を纏った男だった。


 でも、その日。たまたま空き教室で作業してたとき、彼女からの電話がかかってきて、悠真が一言だけ言ったの。


 「……うん、わかった。……無理しないで。俺が合わせるよ」


 その声が、やけに優しくて。

 でもどこか、疲れてた。


 “あぁ、この人、結構我慢するタイプなんだな”って、直感で思った。


 それが、きっかけ。


   ◇


 「加瀬ひより、って言うんだ」


 その子の名前を聞いたのは、飲み会の帰り道だった。

 夜風の冷たい歩道。私と悠真、2人だけ取り残されて、終電までの30分を潰す流れになって。


 「高校のときから付き合ってて、大学も一緒に来たんだって」


 そう話す彼は、どこか誇らしげだったけど……そのあと、ほんの少しだけ沈黙があって。


 「……最近ちょっと、うまくいってないけど」


 って、口元に笑みを浮かべながら、目は全然笑ってなかった。


 私はその沈黙を逃さない。

 いや、むしろそれが欲しくて、話を振ってる。


 「そっか。長く付き合ってると、いろいろあるよね」

 「うん……まあ、俺が至らないだけだけどさ」


 ね? そうやって、また自分を責める。

 そういう男って、意外と簡単に崩れるの。

 “ちゃんと見てくれる人”に出会っちゃえば、ね。


   ◇


 翌週のプレゼン練習。グループLINEで「今日の作業、私と悠真くんでやっとくね」って送ったのは私。

 他の子たちは軽く乗ってくれた。あの子、やっぱ気が利くよね、って。


 教室に2人きり。パソコンを広げて作業しながら、私はさりげなく話を逸らす。


 「ねえ、悠真くんって、怒ることある?」


 「え?」


 「いつも誰にでも優しいじゃん。でも、それって疲れない?」


 キーボードを打つ手が、ふと止まる。


 「……なんでそんなこと、聞くの?」


 「なんとなく。あ、図星?」


 冗談っぽく笑ったけど、悠真はちょっと黙ったまま、視線を落とした。


 「……わかんないよ、自分が無理してるかどうかなんて。普通だと思ってたから」


 その言葉に、私は――正直、ちょっとゾクッとした。


 “あぁ、この人、イケる”


 だから私は、さらに近づく。

 この“あと30センチ”を、縮めていくために。


   ◇


 金曜の午後、小雨が降っていた。

 ゼミが終わったあと、「ちょっと傘ないから、一緒に帰っていい?」と声をかけた。

 本当は折りたたみ傘を持ってた。でも、それは彼のカバンの中と同じ場所にしまった。


 1本の傘の下、彼の肩に少しだけ触れる距離。


 「最近、彼女さんとはどう?」


 「……まあ、相変わらず」


 「寂しい?」


 「……うん。たまに、ね」


 私は傘を少し傾けた。自分が濡れてもいいから、彼が濡れないように。

 それに気づいた彼が、申し訳なさそうに言う。


 「ごめん、華ちゃん濡れてる……」


 「ううん、大丈夫。……これくらい、気にならないから」


 「……優しいんだね」


 「そうかな。……でも私、こういうの、嫌いじゃないよ」


 そのとき、悠真は私を見なかった。

 でも、目を逸らすその仕草だけで、わかる。


 ――気づき始めてる。


 自分の中で、何かが揺れ始めてるってことに。

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