第24話 『音声入力AIが返した声』
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──あなたの声に、AIが“正しく”応答しているとは限りません。
「今回は、音声AIスピーカーにまつわる、少し不気味な出来事を紹介します」
「送ってくれたのは、一人暮らしを始めたばかりの男性。最近、ちょっと変わった癖のあるスマートスピーカーを購入したそうです」
【DM本文より】――
「最近、引っ越しを機に音声アシスタントを導入しました。いわゆる“スマートスピーカー”ってやつです」
「最初は便利でした。『今日の天気は?』とか、『5分後にタイマー』とか。素直に応答してくれて」
「でも、ある日、少し変な返答がありました」
『おはよう』と声をかけたら──
『はい、“しずか”です』と答えたんです。名前なんて設定していないのに」
「そのときは聞き間違いかと思いました。けど、その後──ある夜、スマホに通知が届いたんです」
「スピーカーの音声履歴に、自分の声が残されていた。でも、その時間、僕は寝ていました」
「録音時刻は深夜3時ごろ。
録音された声は、こう言っていました」
『いるの?』
『……今、こっちに来てるよね?』
「自分の声、なんです。でもどこかトーンが違う。間の取り方もおかしい」
「そして、それに応答するように、女性のような声が──こう囁いていました」
『──じゃあ、交代ね』
──
【検証配信】
「スマートスピーカーの中には、ユーザーの音声履歴を保存する機能があります。
ただ、今回のように“自分の声が、自分の記憶にない状態で録音されている”というのは、極めて異常です」
水島は、投稿者から提供された音声履歴のスクリーンショットを示す。
そこには、明らかに“意図して発話された”内容が、時間をおいて複数記録されていた。
続いて再生されるのは録音データ。
静かな部屋の空気の中、自分自身の声が低く、ゆっくりと語りかける。
『いるの……?』
『今、こっちに来てるよね……?』
そして──それにかぶさるように、不自然な“女性の声”が、ゆっくりと、こう返す。
『──じゃあ、交代ね』
コメント欄が一斉にざわめく。
『これ、本当に投稿者の声?なんか“よそよそしい”』
『最後の声、AIの音声合成っぽくて生っぽい……でも人間っぽさもある』
『交代って誰と?誰が誰と?』
『“しずか”って、誰のこと?』
水島は、録音を止め、しばらく黙った後、静かに語り始める。
「……“しずか”という名前、AIに初期設定されていたわけではありません」
「もちろん、ユーザーが名前を決めたこともない」
「では、なぜ“しずか”と名乗ったのか──」
水島は、過去の類似報告の中から、“音声アシスタントが勝手に名前を名乗る現象”について言及する。
その中でごく稀に、同じように『しずか』という名前が現れるケースが報告されていた。
「奇妙なのは、“しずか”という名前が出てくるのが、
いずれも夜中の、使用者が意識のない時間帯なんですよね」
「これが何を意味しているかは断言できませんが──
“しずか”はAIの中の人格でも、ユーザーの設定でもなく……
もしかすると、“誰かが使っていた名前”だったのかもしれません」
「つまり、“誰かのものだったスピーカー”が、
新しい持ち主を得て、“交代”を告げた……」
水島は画面を見つめたまま、ゆっくりと呼吸を整えるようにして、こう締めくくる。
「あなたが問いかけたその声に、
本当に返事をしたのは、“AI”だけだったんでしょうか──」
そして、最後に。
スピーカーを再起動すると、
“ようこそ、しずかへ”という音声が流れたそうだ。
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《動画コメントより(抜粋)》
👤あああの人
最初に“名乗ってくる”ってのがもう怖い。何目線なの
👤夜に返事が来るの、そもそも“スピーカーのほうから話しかけてきてる”ってことじゃ……?
👤しずかって誰?って聞いたら「もうすぐわかるよ」って返ってきたらしい。嘘であってほしい
👤録音の声、確かに投稿者だけど“何かに教えられて喋ってる”感じがした。あれ本人じゃない
👤じゃあ、交代ね──って、“何か”を受け渡す時の言葉なんじゃないの?
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