掣装ヴァスナー

費旺 徳

第1話 蘇った伝説の掣装(バイオセーバー)

 福山城ふくやまじょう近隣の市区町村の住民には片主かたす家が多くある。

 その理由……片主伝承文献に福山城が築城ちくじょうされる数十年前に誕生した掣装せいそう(のちのバイオセーバー)と名乗る守護騎士が一時の日本の安寧あんねいを守ったと記述されていた。

 守護騎士が現れて颯爽さっそうと消えた時から数えて400余年。


 現代の日本は仮初かりそめの安寧が守られていたかのように穏やかで豊かな暮らしの環境になっている……はずだ。

 そんなかたわら、とある国では隣国や近隣国との戦争が絶えてやまなかった。

 それでも日本は安寧が守られてる方なのだ。守護騎士が邪悪を払ったのなら、おそらくは大丈夫なのだと思いたい。


 広島のとある辺鄙へんぴな地区、雄亜楽郡おあらぐん

 そこの住民、片主かたす衛朱えいじゅは小学6年生。

 もうすぐ中学生になるって頃合いだ。

 雄亜楽を出て福山城公園の近くの中学校に入るつもりだった。


「〽燃やせ燃やせ、いーかりを燃やーせーェェ〜〽」


 流石に歌は音痴おんちな衛朱は、自称である自慢のノドをバス中に響かせた。

 クラス分配の観光バス内が卒業記念地方旅行中の車内をにぎやかにさせた。


「エージュの下手くそ!」

「エージュのオンチー!」


 クラスメートの仲間達がボロくそ吐いた。


「悪口言った奴、許さんからな〜」


 そんな時だった。

 他クラスのバスが次々と地中から吐き出したイカかタコの足と思われる巨大な物によって大破されたのだった。


「このバスも危ないんじゃ?」


 エージュはマイクを手放し、躊躇ちゅうちょした。


 エージュ達のバスもターゲットにされたのか巨大地震のように揺れ始めた。


「もう……駄目か〜」


 衛朱の心臓部から何やら光が暴発しだした。

 光が収まるとそこからアザのようなものが浮き出た。


「この紋章のようなアザは、いったい?」


 アザの出現の影響か、バスは謎の光に包まれ、空中を浮かんだ。


「俺達のバスだけ、なんか知らないけどさ、飛んでるぜ」

「ホントだ〜。スッゲー」


 そんな馬鹿なと思い、衛朱は車窓からのぞき見た。


「心臓のアザっぽい形の紋章がアソコの光にも刻まれてる? どういう事だよ。訳分っかんないぜ」


 一方、バス群を襲わせたと思われる連中が、影からコソコソと何やら語りだした。


「アーデラ、あの箱型走行物体は空を浮上してるぞ。地球のデータにはあんな浮く箱のような例はないぞ」

「ベイム、あの浮上現象はおそらくは400年以上前にも同じ事があった。つまりアレは大善神紋章ブライトエンブレムと思われるはずだ」

「大善神紋章なら、中性ちゅうせい獣皇じゅうおうエユワ様にご報告せねばならないな」

「しばし、作戦は中断だ。ターコッシュを回収しつつ撤退てったいだ!!」


 エユワ城都のある地球圏内魔時空層まじくうそう

 エユワが獣皇座に着いていた。


「獣皇エユワ様、只今戻りました。ターコッシュ作戦は中断しました。思わぬデータ外現象を目前に撤退した事、お許しください」

「現象だと? つまり思わぬ出来事ということか? その内容はなんだ?」

「ハハッ……それは大善神紋章の出現で、ターゲットの箱型走行物体の破壊が不可能になりました」

「大善神紋章!? まことか? ぬうう〜まだ眠りが覚醒せぬうちに小細工打ちこむとはな。ようし、少し泳がせておけ。いざとなればターコッシュをバイオセーバー化に改良し、解き放つぞ」

「ハハッ……ありがたきお言葉。ありがとうございます。(このアーデラがいつかその皇座に着くから今に見てるがいい)」


 衛朱を乗せたバスがゆっくりと地上に降り、光の半透明球体はシャボン玉のようにはじけて消えた。


「さっきの半透明の丸いやつなんだったんだろうね」

「ホントホント、神様に救出されたっぽい? そんな感じねー」


 クラス中の皆んなや担任もその話題で盛り上がった。


「そーいや、エージュ、おまえ何か胸のとこから光ってたの見えたぞ。それとバス救出とか関係あんじゃねえの?」

「知らねえよ。いつの間にか光ってただけさ。俺には何だか訳分っかんないぜ」


「キャーーーッ!」


 クラスの女子の悲鳴がした。悲鳴の聞こえていた目的地に行けば、身体の千切れた死体が、地上をい回ってた。


「死体が動いてるぞ! アレはヤバいやつだ。動画撮影しなくちゃな」


 将来動画記者希望の久保田がスマホで撮影しだした。


「久保田のやつ、空気読めよ。まぁ、こんなの信じたくねえが、さっきの光や紋章とか、バスを救けた光のまくとか……関係ありそうだな。俺にできる事あればな」


 そうしてるうちに這い回ってた死体からタコ足のようなものが発生しだし、次第に巨大化した。


 キャーー。

 ワーー。


 生徒達の悲鳴が大きくなった。


「俺にできる事……逃げるんじゃない。そうなんだ。俺は戦士に選ばれた特別な存在なんだ。バケモノ、行くぞぉぉぉ!!」


 立ち向かう衛朱をタケマサが見やり、引き返した。


「この馬鹿!! 一緒に逃げるぞ」

「お、おいタケッ、こっちに来んなって、危ないぞ。下がってろ」


 タケマサが降った地面が滑りやすかったのか、引き戻るのが困難こんなんだった。


「うわあああああああ!! エージュた……す……け〜」


 タケマサはタコ足怪物の餌食として怪物のデカい口に飲まれてしまったという。


「タケ〜〜〜〜!!」


 普段からは涙もろくない衛朱は、大量の大粒の涙があふれ出てきた。

 その時、脳内に召喚できるという正義の騎士の名を呼びかけろと響き渡った。

 それと共に、召喚の掛け声をも習得し、心臓部のアザっぽいそれを天に向け、びだしたのだった。


「来い!! 掣装せいそうヴァスナー!!!!」


 地上、いやこの地球の大地にいにしえの騎士が蘇ったのであった。


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