昆虫アルバイト
ちびまるフォイ
バイトテロ
「いいバイトないかなぁ……」
バイト情報を調べていても、募集条件ではじかれる。
そんな中、条件が書かれていないバイトがあった。
「はい、みなさんがミツバチ候補のバイトですね。
これからみなさんは人間からミツバチとなって仕事します」
「「 はい! 」」
面食らっているのは自分だけだった。
「昆虫バイトが初めての人は経験者についていくように。
ではミツバチになって、仕事をはじめてください」
昆虫バイトの参加者は専用のロッカーに入る。
体が固定されると、ロッカー供えられていたミツバチの体に魂が移動。
あっという間にミツバチとして生まれ変わる。
「さあ、急ぐぞ! まだまだミツが足りない!!」
ミツバチとしてバイトが始まる。
今じゃ人手不足はもちろん、昆虫不足にもなっている。
だからこそ昆虫バイトが多数募集されていた。
「ひ、ひぃぃ!! めっちゃ忙しい!!」
そして昆虫バイトが過酷だとこのとき初めて知った。
花畑と蜂の巣を何度もシャトルランさせられるバイト。
ミツは重いし、必要な量を集めないとバイトは終わらない。
そのうえ女王バチと来たらのんきに巣でふんぞり返っていて腹立たしい。
ストレスと過酷な労働の二大巨頭を備えるひどいバイトだった。
バイトが終わる頃にはやっと人間に戻れた。
「つ……疲れた……。人間の身体は動いていないはずなのに……」
もう二度とミツバチになってたまるかと後悔した。
次はアリとして昆虫バイトを始めることに。
アリは巣でもサボっているアリと働いているアリがいるらしい。
それならサボり側に入れば楽してお金がもらえるかも。
アリとしての昆虫バイトが始まると現実は厳しかった。
「ゴーゴーゴー!!! ほらもっと早く運べ!!」
「うひぃぃぃ!! なんでこんなハードなんだぁ!?」
アリのバイトを始めてもやるのはミツバチとほぼ同じだった。
複雑な巣をかけめぐり、栄養を何度も届け続ける。
自分の体重の何倍も重いものをアゴで挟んで運び続けるものだから、
バイト終了後に人間に戻ってもアゴがうまく動かせないほどだった。
「ミツバチもダメ、アリもだめ……。
もっと楽な昆虫バイトはないのか……」
その後もさまざまな昆虫バイトに挑戦したが、
どれもけして楽なものなんかじゃなかった。
糸出すだけで楽そうだと思ったカイコのバイトも、
気持ち悪くなるほど糸を吐き続けなくちゃいけないのでキツい。
待ってるだけだから楽だと思ったクモのバイト。
クモの巣がキレイにできないと何度も作り直しさせられてしんどい。
光ってるだけだと思ったホタルも、光ることがどれだけ疲れるかを思い知る。
いろんな昆虫バイトを経験しても長く続くことはなかった。
「どれもこれもしんどすぎる! やってられるか!」
もう昆虫バイトをやめようと思ったその時、
見慣れない昆虫のアルバイト募集がふいに現れた。
これが最後だと昆虫バイトに応募した。
現地に到着し、ロッカールームで昆虫に変体する。
「バイトのみなさん、こんにちは。
アリジゴク初めての人もいると思いますが
やることは特にないです。巣で待っているだけです」
「おおお! 楽そう!」
「ではバイト始めてください」
昆虫バイトのアリジゴクは実は人気のバイトだった。
すり鉢のような巣を一度ほったらあとは待つだけ。
指定時間まで巣で待っていたらバイト代が手に入る。
これまでの労働基準法ガン無視の昆虫バイトと比較しても快適。
「ただぼーっとするだけでこんなにバイト代が入るなんて最高!!」
一度アリジゴクを味わったらもうほかの昆虫バイトには行けない。
その後も人間の身体を忘れるほど、アリジゴク生活を続けた。
アリジゴクの時間が長くなればなるほど、
預金通帳の残高は桁数が増えていく。
「ふふ、ふふふ。あとちょっとで目標金額に到達だ!
今日もアリジゴクをしまくるぞ!!」
ロッカーでアリジゴクに変体して昆虫バイトに勤しむ。
就業時間を終えて人間に戻ろうとしたときだった。
「あ、あれ!? 体が……人間の体がない!!」
アリジゴクのバイトに慣れすぎた結果、
人体を入れているロッカールームの鍵をかけ忘れていた。
そこに納められていたはずの自分の体は消えていた。
誰かに奪われたのだろう。
「ど、どうしよう! これじゃ人間に戻れない!」
焦っているとアリジゴクの体に光が注がれる。
大きな指が自分の体をつかんだ。
「な、なんだ!?」
アリジゴクを見つめるバカでかい目。
それは人間の子どもだった。
「パパ! アリジゴク捕まえた!!」
無邪気な声が聞こえる。
あわてて逃げようと指にアゴを突き立てる。
「痛っ!!」
子どもはふいを突かれて指を離した。
あわてて巣に戻るも、父親らしき人間がやってきた。
「よくも息子を!! この害虫が!!!」
息子の指先からわずかに出ている血を見て、
父親は怒りのあまり小さなアリジゴクを靴裏でふんずけた。
自分の最後の光景は、迫りくる靴裏の模様だった。
・
・
・
「こ、ここは……」
目が覚めると近所のいわくつきトンネルだった。
自分の体を確かめる。
人間には戻っているようだが透けている。
「そうだった。アリジゴクとして死んじゃったんだ。
……でも、死んだら人間の形になるんだな……」
「そうだよ。幽霊は魂の形で再現されるから」
「わっ、びっくりしたぁ」
他に幽霊の先客がいたことに驚いた。
自分と同じように体が半透明になっている。
「まあ、お互い幽霊なんだしこのトンネルにやってきた人を驚かせようや」
「なっ……なんでそんなことを?」
死にたてで状況が掴めない自分に対し、
その幽霊はさも当たり前のように答えた。
「なんでって……そりゃ幽霊バイトだからだろ?
お前も幽霊バイトとしてここへ来たんだよな?」
自分はガチで死んだことを気づかれていない。
そして、相手は幽霊バイトとしてここへ派遣されたのだろう。
それがわかると、自分の中である悪いアイデアが思いついた。
「ところで、君のロッカールームって……どのあたり?」
幸運にも、彼はロッカーの施錠を忘れていた。
昆虫アルバイト ちびまるフォイ @firestorage
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