第9話 気軽な会話

 オフィスJKM内で解体されたアンドロイドの金属回収が行われている。



 回収業者の往復を見ている。残された作業員たちも動くと邪魔になるし、回収業者の仕事が終えるのを待つのが最善だろう。


 ぼんやり外を眺めると、ヤンヌがまた皆に声をかける。


「みなさ~ん、回収作業が終わったそうなので、残っている廃棄物を手分けして運びましょ~。その後、昼休憩にしま~す」


 金属は回収されたが、それ以外の部品、破片は産業廃棄物として運び出す必要がある。作業員全員で運べば、それほど時間はかからないだろう。

 皆が丈夫な手袋をして、膝くらいまでの高さがあるコンテナボックスにどんどん廃棄物を詰め込んでいく。いっぱいになれば、二人一組で台車に乗せ運ぶ。順番に詰め込むと、アケビとヤンヌが運ぶ番となった。


 二人は、会社を出て右に曲がり、ひたすら真っすぐ進み、突き当りを左に曲がる。また、ひたすら真っすぐ進む。すると、行き止まりになり、再処理施設の端まで到着した。この場所には、ダストシュートと言われる1階まで下りなくても、産業廃棄物を回収してくれる穴がある。この穴は昔ながらなものとは異なり、下からの逆風や廃棄物の飛散を防ぐよう多重扉になっていて、扉を閉め、[排出]ボタンを押すと、複数のローラーと圧縮空気により、一気に廃棄物が送り出される。


 ヤンヌが扉を開けると、アケビは恐る恐る廃棄物を何回かに分けてダストシュートに放り込む。


「何を怖がってるんですか?」

「いや、なんか吸い込まれそうで」


「安全装置ありますし、そういう事故は無くなりましたよ」

「あ~、そうっすか」


 全ての廃棄物を入れ終わると、ヤンヌが扉を閉めた。


 ガゴッ!プッスゥー ソォン!


 ただ送り出すだけでなく、廃棄物を吸い込んでいそうな音がした。


「戻りましょうか」

「はい、移動距離もありますし、行きましょう」


 二人は、台車を押しながらゆっくり歩き出した。


 ヤンヌはアケビに話しかける。


「アケビさん、朝から大変でしたね。言いがかりとか?」

「あ~、あの臭い人が、自分の思い通りに他人を扱いたいんでしょうね」


「ヒドノラさんねぇ、オフィスJKM立ち上げ当初からいるので、自分が会社大きくしたと思ってるところはあるでしょう。実際違いますが」

「アタシのような他社から来た者には、よそ者だったり、知識不足な人で扱われてます。トニーチさんも似た感じです」


「トニーチさんは、社長の右腕として、実際支えてきた方です。機械全般詳しくて、現在の業務内容になる前も引っ張ってこられました」

「そうなると、社長の影響で、口調が荒かったり、強引さがある、と?」


「トニーチさんは、プライドというか他者への要求度が高いように思いますよ。ゲーダ社長は、その相手によって厳しく言われることがあります。でも、基本的には良い意味で子供っぽく、可愛げがあるでしょ?」

「どこに?」


 アケビは顔を引きつらせながら素早く言葉を返した。通路の窓近くになり、ぱっと日が差し、ヤンヌの顔を照らすと、何とも柔らかい表情。『まさか?』と思い、アケビは聞いてみた。


「あの、ヤンヌさん、社長と付き合ってたりしませんよね?」

「あれ、知らなかった?ワタシ、2番目なのよ」


 アケビは立ち止まり、口が開いたままだった。


「ほら、まだ会社までは遠いので立ち止まらずに」

「え、あ、はい。……ヤンヌさん、第二夫人ってやつなんですね」


 ヤンヌは、目を丸くしてアケビに言う。


「違う、違う!ワタシは、2番目の愛人。2号」

「ふぁーっ!!」


 ヤンヌは、ピースサインで2番目を表し、照れ笑いしている。たじろぐ、アケビ。


「そ、それじゃ、社長がアタシに口説いてきたのって、3号にしたかったわけですか」

「いや、違います。もう3号さんいるし、何番目だろう?社長に聞かないと分からないかな」


「ま、まじっすか。でも、社長夫人は知らない訳ないですよね?」

「奥様は知ってるし、ワタシは奥様から社長を奪う気もないわ。何人かは認知された子供いますよ」


「どう言っていいのか、すごい関係ですね」

「おかしいのは分かってるし、どこかで区切りはつける。愛人会議でも、そういう話ありますから」


「愛人会議!会合して、話し合って、その時、社長何してるんですか?」

「子供と遊んでましたね」


 よろめくアケビ、台車を通路の壁に接触させる。


「大丈夫ですか?お腹すいたんでしょ。1階に良い店あるから、一緒に行きましょうか」

「えぇ、お供しますよ。ぶっ飛んだ話が足にきました」


 オフィスJKMに辿り着くと、作業員たちがヤンヌの指示待ちで待機していた。


「はい、お待たせしました。今から、お昼休憩の時間とします。午後は、清掃作業です」


 その話を聞いて、作業員たちは会社から出て食事を取った。アケビは、ヤンヌと共にまた移動する。

 1階に下りると、飲食店が集まっているエリアまで、また歩く。そこには、色んな香りが混ざり、空腹を刺激した。


 ヤンヌが言う。


「ここですよ、ここ。立ち食いですけど、すごくおいしい、うどん・そばの店です」

「へぇ~、こんな木造なお店が、金属とコンクリートまみれな場所にあったんだ~」


 通路から少し入った場所にある、暖簾はあるが、屋号が書いてないカウンターだけの店。ヤンヌが勧めるというので女性人気もあるのかな?とアケビは思った。しかし、違った。


「このお店は、ゲーダ社長と来るお店のひとつです。社長は春菊天がお好きですよ」

「そうなんですか。すみませ~ん、ごぼう天うどんにワカメ追加で」


「え、オススメしたのに~。それじゃ、ワタシは月見うどんに、ちくわ天トッピングで」

「そっちも違うじゃん!」


 社長好みを外すやり取りをして、ニヤニヤしながら、注文の品を受け取る二人。

 食べ進めながら、ヤンヌが話し出す。


「あの会社の設立当初は、もう少し皆が仲良かったように思いますよ。社長はヤンチャさがあって、笑い声がしてました」

「初めって何やってたんです?」


「ん~、何でもかな。配達、設備機器取り付け、掃除代行、等。実は、運んでいたものが何だか教えてもらえない時もあって、高額報酬でした」

「はい~、聞こえな~い。アタシは何も聞いてな~い」

「ハハッ」


 聞こえていた店の主人に笑われた。

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