第9話 番外編
とあるボウリング場で強化合宿メンバーVS Uー20メンバーという絶対負けられない戦いに興じていた結城蒼梧は、ラストの投球ですっ転び・・・正真正銘の奇跡的なストライクを決めていた。
そんな時、結城蒼梧が一番聞きたい声が鼓膜を優しく揺らした。
「あれ、結城?」
「んー?」
合宿から2週間だけ解放され天才は『シャバに出た』と早速恋人に連絡を取ったが、返事が来るよりも早く合宿先で仲良くなった真田肇から遊びの誘いが来た為、今日恋人に会えるとは思っていなかった。
『まぁ2週間あるし、どっかで会えるだろ。とりあえず寝よ・・・』
楽観的に思っていた蒼梧は、実際に久しぶりに目の前に現れたリアル一ノ瀬真桜に目をパチパチと瞬かせる。
見ない間にとても可愛くなっていた。
ボウリングだからか、普段おろされている髪はゆるく巻かれてポニーテールにされており、少し出ている後れ毛が何となく色っぽい。
白いふわふわしたニットも触ってと言っているようである。
セットアップの膝上の白スカートの下で、40デニールのタイツに包まれた脚が、またもや触ってと言っている。
7センチの赤いハイヒールで上乗せされ、上目遣いは普段よりも距離が近い。
瞼はキラキラしていて、ほっぺは食べごろを教えてくれているように火照っている。
結城蒼梧は女のお洒落にまったく興味はないが、とにかく可愛いということはわかった。
「ボウリング?」
「うん。模試終わって打ち上げしてるんだ、塾メンで」
そのままぽやっと見惚れている男と、とんでもなくマブい女を見てその場にいたチームメイト達はざわついていた。
「え、アレもしや結城の!?」
「は?嘘だろ・・・なんかエロいし」
「彼女でも彼女じゃなくても一旦ハグさせてほしい」
「お洒落やねぇ」
「すげー美人」
「色合い的に白くてなんかお似合いだね」
そんな周りの言葉は2人には届いていない。
「あれ?顎どうしたの?なんか赤い」
「さっき転んだ」
「え・・・大丈夫なの?」
「足がもつれた」
「うっかりさんだなー」
真桜はジッと顎を見つめている。
もう少し可愛い彼女を見ていたかったので顎を引くと『見えない』と怒られた。
シュンッとしながら顎を上げ続けていると、ようやく顎の検分は終わったようであった。
蒼梧は人生でここまで顎を見られたことはないので新鮮な気持ちだった。
「真桜もう解散?俺疲れたし腹減った。家に来て一緒にご飯食べて風呂入ろ」
「えぇー、友達優先しなよ」
「まだ顎見てるし」
「帰ったら冷やした方がいいよ」
「めんどいからやって」
年齢が年齢なだけに、多感なチームメンバー達は『家来て』、『一緒にご飯食べて』、『お風呂入ろ』に顔を青くしたり赤くしたりしていた。
そもそもほぼ全員が自分こそがいい男だと思っている節があるので『どうしてこいつ(結城)にこんな・・・どうして』とキレかけていた。
唯一の知り合いである佐伯ナオは『真桜ちゃーん』と手を振ると『あ、ナーさんもいる』と手を振り返され、ナオはこれ見よがしに負け惜しんでる男達に悪い顔を見せつけた。
「あ、呼ばれてる。夜電話するね?」
「真桜」
ひらひら手を振りながら塾メンとやらのところへ帰っていく真桜を見て、蒼梧は目を瞬かせた。
塾メンとやらに男が何人かいることを確認した蒼梧はんのそりと靴を履き替える。
同じく帰ろうとしていた真田肇は靴を履き替えている蒼梧に声をかける。
「年上彼女?あんまりめんどくさいって困らせんなよ」
「んーんタメ。それに困らせてないし」
「お前一人で生きていけなさそうじゃん。彼女しっかりしてそうだし、すげー大変そう」
そんな言葉に蒼梧は不思議そうに首を傾げ、事実を呟いた。
「ぜんっぜんしっかりしてないよ。俺がいないとダメなのは真桜の方だよ」
手をひらひらさせてのしのしと別のレーンへと向かう蒼梧。
そして数分後に赤いショルダーバッグを自分の肩にかけて、真桜の細い手首を掴んで攫って行く。
しっかりしていない、自分がいないとダメな可愛い彼女を。
やる気ゼロ男の初恋 @mi-san123
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