やる気ゼロ男の初恋

@mi-san123

第1話 しっかりしているのは・・・どっち?

「わぁ、美味しそっ」

 女はそう呟いた後にスマホのカメラでケーキの写真を数枚撮った後、自身の前に置かれたショートケーキにフォークを入れた。

 たっぷりのクリームで着飾れていたイチゴが皿の上に転げ落ちる。

 女はフォークでイチゴを取ると、隣に居る男の口元へとイチゴを運ぶ。

「はい、どーぞ」

「ん」

「おいし?」

「イチゴが甘い」

 もぐもぐしながらも、自分が読んでいる本から目を離さない男に、女は満足そうにした後に男の前に置いてあるモンブランにもフォークを入れる。


 恋人ではない男女にしては距離が近すぎる目の前の人物達に一緒に居た男・・・佐伯ナオは『もしかして』と思い問いかける。

「蒼梧、こんなしっかりした女友達がいて良かったな?」

 ナオは『自分が知らないだけで、この2人は付き合いだしたのでは』と考えながら、『女友達』という単語を強調して目の前の男・・・結城蒼梧に話を振った。


 だが、蒼梧は自分が読んでいる本から視線をあげるともぐもぐとモンブランを食べ終わったところで、目の前の友人・・・ナオに

「真桜はしっかりしてない」

 はっきりとそう言い放つと、ナオはポカンっとした顔で「は・・・?」と言い、言われた本人である彼女・・・一ノ瀬真桜は驚いた様に蒼梧に言う。

「え、突然のディス」

なんでディスられているかもわからないが、蒼梧のいきなりの発言に慣れっこなのか・・・その一言だけでまたケーキを食べ始めた。


『いや、お前の面倒をここまで見てるんだからしっかりしてんだろ』と思ったが、口には出さないナオ。

「教科書忘れたりするし、昼休みに寝過ごして授業さぼったりしてるし。俺がいないとダメな気がする」

「・・・」

淡々と言い切る蒼梧に、最初は『何でそんな事いま言うの!?』と怒っていたが、段々と自分のダメな所を言われて凹んだように顔を渋める。

 

 どう見ても蒼梧の方が1人で生きていけないような男なのに、彼に『俺がいないとダメな気がする』と言われるのは納得がいかないようだ。

「いや、俺がいないとダメな気がするって・・・」

ナオが呆れた様に言うと、蒼梧は続ける。

「可愛いからすぐ攫われそうになるし、押しに弱いし・・・もっとしっかりしてほしい」

 

 ナオは『お前が言うか・・・っていうか、え?こいつら本当に付き合ってないのか?』

そう思うのはもう何回目だろうか・・・。

「あたしはしっかりしてる方だと思うけどなぁ。それに押しに弱くないし、ちゃんと断れる!」

真桜がそう言うと、即座に蒼梧が言い切る。

「いや、弱いしちょろい。心配になるな」

「えぇー・・・そこまではっきりと」

誰が見ても『美人』の部類に入る真桜を『可愛い』と言い切った蒼梧は、溜め息をついて本をテーブルに置いた。


 そして隣に座っている真桜の椅子の背もたれに腕を回し、近すぎる距離を更につめた。

「じゃあこのケーキ食べ終わったら俺ん家に来て」

「えぇー・・・」

「一緒に夜ご飯作って食べよ」

「魅力的だけど・・・門限あるし」

「破るとどーなるわけ?」

「怒られる」

「じゃあ俺も一緒に怒られるから」

「いや、そういう問題じゃなくない?」

「ダメ?」

 何を考えているのかわからない蒼梧の大きな目が、真桜の逃げ場をなくしていく。

ジッと下から覗き込まれるように見つめられ、真桜がどうしようもなくなった時・・・。


「ほら。押しに激弱」

蒼梧はそう言って真桜の皿からクリームまみれのイチゴを奪う。

そんな蒼梧を見て、真桜は悔しそうに蒼梧の胸にグーパンをする。

「イケメンに耐性がないんだ、ばーか!って言うかイチゴも取らないで!?」

そんなやり取りを見せられ、向かいに座っていたナオは『人間っておもしれー。っていうか、コイツらが面白いだけかもな』と思うしかなかった。

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