第22話 次会ったときはハグしようよ

 けいがさらに続ける。

 「でも、そういうのはよくないって。だから、中学入ったときから、わりと熱心にやるんだよね。かんぴょう作り実習とかもしたし」

 何か知らないけど、かんぴょうは地元の名産だ。

 「何か知らないけど」というのは、どういう事情かは知らないけど、ということだし、その前に、「かんぴょう」って何か、じつは知らない。

 だから、

「あ」

と声が出る。

 「わたし、そんなのやってない」

 美聖みさとが言うと、圭は、くくっ、と笑った。

 美聖はつられて

十郷そごう温泉で温泉実習とか、そういうのはなし?」

と言う。

 「ない」

 つれない。

 「でも、こんど提案してみるよ。通るかどうかわかんないけど」

 ふうん。

 そんな提案できるんだ。

 うめらん高校。

 でも、それを言おうとしたとき、柳の葉がトンネルみたいに続いている向こうに、バスが姿を見せた。

 まだすぐにはここに着かない。ここに来る前に野守のもりばしの停留所がある。

 通過するかも知れないけど。

 「さ、バス来たよ」

 短く促す。

 「うん」

 圭も短く答えた。

 バスの来るほうも、美聖の顔も見ないで、続ける。

 つまらない、という言いかたで。

 「美聖さ、さっきわたしにキスしようとしたでしょ?」

 「はいっ?」

 なんという、突拍子もないことをさらっと言ってのけるのだろう?

 そんなことしてない、と爆発するように言おうとして、寸前で思い出した。

 あれはキスしようとしたのではない!

 キスしようとしたのではないが。

 丸顔で、意外に鼻筋が通っていて、それに引き込まれているうちに、圭の寝息が美聖の唇に当たった。

 たぶん、美聖の息も圭の唇に当たっただろう。

 あれはキスしようとしたのではないが。

 キスするのとはだいぶ違うと思うが。

 でも。

 違わない何かもある。

 違わない何かも。

 その気もちの悪いためらいを、圭は、最初はあの茶色っぽい黒い目で、眉を寄せて、不快そうに見ていた。

 でも、そのうちにその眉が開いて、唇を大きく引いて、こいつらしい笑顔になる。

 「じゃ、さ」

 美聖が肯定も否定もしないうちに、圭は言った。

 「次会ったときはハグしようよ」

 「はっ?」

 びっくりした。びっくりしたとともに、頬が熱くなる。

 さっきからたしかに日焼けっぽく熱くはあったのだけど、ここは日陰だから……。

 「ハ・グ」

 いままで見せなかった、いや、聴かせなかった、ねちっとした言いかたで、圭は言う。

 「抱きつき合うの」

 それで、くははははっ、と笑った。

 笑うと、そんなに悪意っぽくないんだけどなぁ……。

 「いや、抱きつき合うのはわかってるけどね」

 あばれている心を抑えて、美聖は、平常心らしく、無関心そうに言う。

 で、装ってそう言ったとき、ふと気もちがわっと湧いてきた。

 「いいね! それ! 今度会ったらぜひやろう!」

 すごい乗り気、という、すごいオーバーな言いかたで返事する。

 べつに嘘の気もちではない。でも、これでこいつが引いたらおもしろいな、と思う。

 圭の反応はごく普通だった。

 また口を大きく引いて、目を細めて、笑っただけだった。

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