異世界でも最後の晩餐くらいは好きにさせてくださいっ!
緋色友架
プロローグ
悔いを残す前裁
「っ……さ、最後、に……言い残す、ことは……?」
「――――あぁ……」
眼隠しで視界はとうに黒一色。
最期を迎えるこの部屋の、壁の色、床の色、電球の色、そして拘置所のお偉いさんの顔色ももう、記憶からぽろぽろ抜け落ちている。どこでどんな風に死ぬのかについて、俺という人間未満はとことんどうでもいいのだろう。ギシギシと、立つ床が僅かに軋むのが気になるくらいで、遺したい言葉なんて、言われたところで浮かんでこない。
死ぬ間際、人は走馬灯を見ると言う。
それまでの人生を振り返り掘り漁り、死に瀕した状況を脱しようとヒントを探すそうだ。――――尤も、ここに立っているのは俺の自業自得、今更避けようもないのが実情だ。
ガラス1枚向こうに立ってる、3人の刑務官が。
一斉にボタンを押したら、それで終わり。
避けようも止めようもない、これ以上なく確実な死だ。
脳も生存を諦めているのか、それとも最初からどうでもいいのか。走馬灯の始まる気配すらなくて、だから、ロクでもない過去を振り返ろうなんて酔狂な心境にはなれなくて。
「……あぁ、そうだそうだ、ひとつだけいいか?」
それでもまぁ、求められたのだし、なにか言わないとなって。
気怠い頭で考えた末に思いついたことを、俺は、欠伸交じりでも言うことにした。
「今日の朝食……殊更味気なかったよな、あれ。味噌汁の味が薄いのはいつものことにしたってさぁ、主菜が野菜炒め、副菜に白菜の漬物って……野菜ばっかじゃねぇかよ。最期くらい豪勢に肉食いたかったなぁ……なに? 白菜が豊作で値段下がって――」
「っ、は、早く落とせっ! もういいっ! 早くっ! こいつを殺せぇっ!!」
――――と、一体なにが逆鱗に触れてしまったのやら。
所詮、人間未満の俺には分からない。人間様なこの男だって、俺のことなんてきっと分からないだろう。
60を超える人間を殺した俺のことなんて、分かりたくもないだろうけど。
けど――――あぁ、今のが俺の、今生最後のひと言か。
最期に飯への文句とは……それしか楽しみのない、俺らしいと言えばそうだけど。
でもじゃあ逆に――――最後になにが食べたかったのか、を。
床が外れ、落ちて締まった縄が頸椎を折るまでの1秒で、俺は思い浮かべられなかった。
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