第2話
「久しぶりだね、誠一(せいいち)」
とにこやかに挨拶をする軍服姿の強面の男、それがこの友部 蔵人だ。
こいつとは軍人時代よく、バディをしていて数多の作戦で戦場を共に駆け巡った男だ。
だからこそななのか、私が過去の身分を誰にも明かさずに暮らしていることを一番知っているはずなのに、わざわざ軍服で家に来る状況、いやな予感しかいなかった。
「ぐ・・軍人さん?」
と娘は初めて間近に見る軍人に驚き、妻もまた驚いていた。
軍人が何でさえない派遣社員のサラリーマンの夫に用事があるのかと。
「はぁ・・・くらちゃん、お前ほんとに面倒しか起こさないよな・・久しぶりだよクソボケ、どうせ禄でもないことだろ?入れよ」
と、いつもの情けない私では無い、らしくない口調に二人は更に驚く。
ぽかんとしている二人を尻目にリビングに通すと、酒を勧める。
「くらちゃん、どうせ運転手付きで来てるんだろ?一杯飲むか?」
とウイスキーを勧めるが、丁寧に断られた。
「力を貸して欲しくて来たんだ」
と、蔵人は私に頭を下げる。
強面の軍人が私に頭を下げる姿に二人は既についていけてない。
「勘弁してくれよ、もう退官して数年経つんだぜ?何ができるんだよ」
その言葉に特に妻がえっ、と驚く、うん、言ってなかったしね。
「あ、あなた退官?退官って、あなた元軍人だったの?」
「うん、まぁ・・・昔のことだし、言っても関係ないかなって」
話を戻させる。進まないからだ。
「で、くらちゃんが態々私・・言いにくいな、俺に戻すぞ、俺に頼みに来たってことは物凄く面倒なことだよな?わざわざ退官したパイロット呼び戻すなんて禄でもないことしか思いつかないし」
と呆れ顔で足を組む。
「話が早くて助かるよ相棒、これを見てほしい」
と渡されたのは巨大な写真と各種資料だ。
「うん?これって最近何かと話題のUFO騒ぎの奴だよな?おいおいw勘弁してくれよwゴシップネタで俺まで引っ張り出そうって・・は?」
内心アホ臭いと馬鹿にしながらも資料を読み進める。
そこにはあながち馬鹿にできない内容が多々含まれていた。
「いや・・いやいや!待て待て!!俺たちが育てあげた小隊が全機吸い込まれた!?なんだこれ!」
書類には、UFO調査のために、偵察飛行をしていた電子戦機やAWACSがごっそり雲の向こうに消失したとのことだった。
ニュースにならないのがおかしい内容だ、流石に中身が中身なので表に出ないだけだろうが。
「ああ・・・状況の理解が早くて助かると相棒。これが長官からの指示書だ」
と揉めまくった糞上官が長官になり、そいつからの指示書で特例で原隊に復帰させる旨が書かれていた。
「まじかよ・・・俺さ今派遣社員だぞ?わかる?コールセンターのオペレーターやってるわけ、いきなり戦場に戻れって?冗談でしょー・・」
頭を抱えるが、どうしょうもない、何が悲しくて退官したのに尻ぬぐいをしないとならんのか。まぁこいつが来るくらいだし、糞上官に付け込まれたんだろうなぁ…
「はぁ・・・・わかったよ、戻るよ、戻ればいいんでしょ。わかりました、わかりましたよ!」
「助かります、中佐」
中佐?俺は退官した時は少佐じゃないっけ。
「特例で、中佐に格上げされたんですよwははっwざまぁw」
「いい性格してるよほんと、くらちゃん、いや友部 少佐」
こうして俺はとんとん拍子で原隊復帰させられ、家族と共に、空軍基地のゲートに来ていた。
昨日の夜?もちろん嫁と娘は奴が帰った後根掘り葉掘り詰めてきたよ。
やれ、派遣社員に何でなったのとか、なんで今まで隠してきたのとか。
いつもの情けない俺とのギャップが酷すぎるとか。
いつの間にか娘は軽蔑する目ではなく尊敬するかっこいパパのの目になるし、妻に至っては夜ほんと凄かった、何がとは言わない、察しろ。
そして原隊復帰当日 1200時 町の僻地にある空軍基地のゲートにて
「あーーーー!やだやだ!空は好きだけど、もう働きたくない!働きたくないんだよ!派遣社員でいいじゃんか!なんで俺は貧乏くじばかり引くかなぁ!!」
ゲートの前で困惑する妻と娘とに白い目で見られながら頭を抱えていた・・
どうしてこうなった!!
夜目~やもく~ @motokuji2025
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