夜目~やもく~
@motokuji2025
第1話
空はいいものだ。
虚空に広がる漆黒の闇、日中よりも個人的には夜の空のほう好き。
だからこそ、私は・・
― 今日も空を見上げる ―
時刻は2200時、今は、退官してただ空を眺めるだけだ。
退官した時の階級は少佐、個人的には数えきれないほどの敵機を撃墜してきたし国のために忠誠を尽くし貢献してきたという自負もある。
多くの部下を育ててきたし、教官をしたこともある。
それこそ訓練教本にいつも間にか載っていた時は恥ずかしくて表を歩けないくらいドギマギしたものだ。
だが結婚した時もした後も、家族には誰も元空軍パイロットとは、言っていない。空の思い出を誰にも汚されたくないからだ。
30代後半で上官と揉めて退官した後は、知り合いの紹介でコールセンターで派遣社員をしている。
嫁さんとは3年前に職場で知り合い、娘持ちのバツイチだったがお互いフィーリングが合い結婚している。
最初の頃こそ娘は私に懐いていたが、一年、二年経つと丁度反抗期が来たのか、年頃だからなんだろう、私のことを露骨に馬鹿にし始めた。
まぁ言うなれば派遣社員を馬鹿にする子だ。
軍隊で鍛えた鋼のメンタルがなければ心が折れていると思うが、こちらは元軍人、何を言われようが何をされようが全く、ノーダメージだ。
最近は嫁さんも新婚の熱が冷めたのか、私をかばう発言をすることもほぼなくなっていた。
夜の営みもめっきり減り、レスが続いている。
楽だからいいのだが、ちょっと寂しい。
最近はNTR物の二次創作ばかり読んでいるせいで現実的にあり得ないだろうと思いつつも嫁はNTRでもされてるんじゃないのか、浮気してるんじゃないのか不安になることが多々ある。
家での私の扱いは特に娘からの精神攻撃がキツクはなっているかな。
そんな日常の一コマである。
「ちょっとお父さん!洗濯物一緒に入れないでって言ったよね!!」
と娘の莉緒(りお)が声を荒げて文句を言いに来ていた。
娘は高校一年生、いわゆる、お年頃言う奴だ。
3年前に会ったときはあか抜けた感じで素朴なかわいい女の子だったのだが高校デビューというものらしく、急に茶髪にしピアスを開けたかと思えばパッと見、ギャルみたいな見た目になってしまい、まさに今どきの娘になっていた。
「ご、ごめん。次からは気を付けるよ・・」
といつものようにおどおどした感じを装い、謝罪を口にする。
家族に元軍人でしたと特に言う気もないので、普通の一般家庭の頼りない父親を演じている、これで過ごせば娘も妻も情けない人としか見ないので楽だからだ。
「あなた、明日友達とランチだからお留守番お願いね」
と冷たく言うのは妻の、真央(まお)だ。
最近何かと土日はランチでいないことが多い。
浮気してるんじゃないかと不安だったが、情報部の知り合い曰く、白とのことで放っておいている。
「う、うん。楽しんできて」
と頼りない感じで答えると心底見下した目で私を一瞥するとスマホをいじりだした。
ああ・・ほんと悲しいなぁ…
「そういえば、今度授業参観だよね、私も行こうか」
と提案すると案の定二人からは断られる。
やれ派遣社員だから恥ずかしいだの、散々な言われようだ。
妻には言いたい、お前も派遣だったじゃないかと。
そんな日常、何気ない日常がこれから先も続くと思っていた。
嫌な予感というものは、大体いつも当たるもので、夜にやってくる。
ピンポーンとチャイムが鳴り、時間は2245時、こんな深夜にいったい誰だと玄関に行こうとすると娘が対応する。
そこには、昔の仲間であり、旧知の親友の友部 蔵人(ともべ くらと)がいた。
「お父さんはいるかな?大事な用事があるんだ」
何で軍服でくるんだこの馬鹿野郎は。
「くらちゃん、勘弁してよぉ・・なんで態々軍服でくるんだよぉ・・・」
俺の隠し通してきたものがぁぁぁ…
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