灰色の雨と、毒々しくも鮮烈な花の香り

ページを開いた瞬間、冷たい雨の匂いと、色のない世界が脳裏に広がりました。

視界から色が失われた絶望感と、そこに突如現れる「想花」の鮮烈な色彩の対比が本当に美しい作品です。

特に素晴らしいのは、視覚だけでなく嗅覚や温度まで伝わってくるような文章力。
むせ返るような花の甘い香りや、雨に濡れた身体の寒さ、そして差し出されたコーヒーの温もりが、読んでいるこちらの肌にも伝わってくるようでした。

職を失い、世界から孤立した主人公・穂香が、怪しげな花屋の店主・蓮と出会うことで動き出す物語。

「人の感情を苗床にする花」というダークでミステリアスな設定ながら、不思議な透明感があります。

少し影のあるヒューマンドラマが好きな方には絶対に刺さるはず。

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