第2話 浅野vs業人 愛のフスドンバトル!?


江田島の朝は、だいたい怒鳴り声から始まる。

「業人!!今日こそ外に出ろォォォ!!!」

「出る予定だったけど、今日は暑さがオラの敵だった……」

「そのセリフ、先週も聞いたわ!!!」

焼肉(71)は、定年退職してから毎日、息子の引きこもり人生と戦っていた。

業人(41)はその期待に応えて、完璧に負け続けている。

今日も親子喧嘩の応酬かと思われたが、突如としてチャイムが鳴る。

ピンポーン。

「どちら様ですかァァァ!!」

「夜露死苦お願いしやす! 三崎学園旧番長、浅野っす!!!」

ドアの前に立っていたのは、上下スカジャン、金髪リーゼント、異常に太いズボンのザヤンキー。しかも土下座済みの状態で。

「うちの業人と、お見合いですか……?」

「ちゃいまんがな!俺……就職したいっす!!!業人先輩に弟子入りさせてください!!!」

「ハァ!?」

「実は……オレも昔は仙台で引きこもってたんスよ……。だけどYouTubeを見て目覚めたんス」

浅野が取り出したスマホ。画面には

《社長をクビになり精神崩壊した40歳》

「……それ俺のYouTubeじゃねえか!!!!」

「この先輩、伝説っすよ! “週5で寝てドアにガンツキのライフスタイル……俺もそんな大人になりてぇっす!」

「それ褒めてないからね!?」

焼肉はブチ切れた。静かに立ち上がり額の血管が、明らかに怒りの日本地図を描いていた。

「よく聞け。業人、お前の人生が人に影響与えるなんて思ってもみんかった……けどな!」

「うん……?」

「影響与える方向が真逆なんじゃボケェェェ!!!」

「逆インフルエンサー!!」

「浅野くんよ弟子入りの条件は、ひとつだけじゃ」

親父はそう言って、庭に置かれたボロい竹刀を手に取った。

「業人と……リアル面接ごっこでタイマンじゃ!!」

「ごっこ!?」

「タイマン!?」


【ルール】

・1人が面接官、もう1人が就活生。

・3分間、耐え抜いたほうが勝ち。

親父の手作りとは思えない高クオリティの「面接ルーム(物置)」で、謎の勝負が始まった。

決着!

業人「えー、御社を志望した理由はガチ恋助詞がいるからです!」

浅野「俺の特技は、威圧とインナーチャイルドです!!あとカレー作りです!!」

「不採用!!!!」

「どっちも!?」

騒ぎも終わり、浅野は礼を言って帰っていった。玄関で見送る業人に、親父はひと言。

「……あのヤンキーが尊敬してます言うたとき、正直、ワシ涙が出そうになったわ」

「俺、何にもしてねぇけど……」

「そうじゃ。何にもしてないお前を、誰かが見てる。信じられんわ……」

そう言って、親父は夜空を仰ぎ、咆哮した。

「このバカタレ!!!!はよ働け!」

「馬鹿息子で悪かったな!!!!」


その声が、江田島の空にこだました。

ちゃんちゃん

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