go!go!GO人

浜松彰

第1話 江田島ギャグファミリー

ここは陸の孤島江田島。広島県の南端で海と山と戦艦の町だ。

「おい!業人はよ起きやがれ!」

朝7時。江田島のとあるボロ民家に、地響きのような怒声が轟いた。

「だ、だでぇ〜」

汚い尻汁付き布団から這い出たのは、41歳の業人。30年前から一歩も外に出ていない、江田島が誇る伝説の引きこもりだ。

「てめぇ、今日こそ就職の面接受けるっちゅうたじゃろうが!」

「行くとは言ったけど、行くとは言ってない」

「どっちじゃそれは!!!!」

親父・焼肉。71歳。元自衛官。趣味はプロテインとビンタ。現役時代は防衛ではなく、主に息子のスパルタ教育に全力を注いできた。

「業人、今日でお前の引きこもり生活は終わりじゃ。わしが予約した島で一番高い焼肉屋に行くぞ」

「え、焼肉?面接じゃなくて?」

「面接より肉じゃ! 肉には人を変える力がある!! ……お前を炭火で社会に送り出すんじゃ!」

「ウィース!!!!!!」

親父は無理やり業人を軽トラに乗せ、焼肉屋へと連行。道中「就職とはなんぞや講座」が連続で再生され業人のストレスは頂点に。

焼肉店「柴田」。店長は元クソザコプロレスラー。肉も態度もゴツい。

「いらっしゃい! 今日はお父さんの肉で更生プランですね!」

「え、プラン名あるの……?」

座るや否や、肉が運ばれてきた。

「業人!!お前の将来はこのカルビと一緒じゃ! 今すぐ燃えろ!!」

「それ絶対悪い意味じゃん!!」

網の上でカルビがジュウジュウと音を立てる。親父は語る。熱く、暑苦しく、煙たく。

「40年生きてきて、何かやりきったことがあるんか!?」

「ドアにガンツキした……」

「そんなもん履歴書に書けるか!!」

「書いたら落ちた……」

「落ちて当然じゃ!!!!」

「もうええ業人……今日でわしら親子の勝負、終わりじゃ。最後に好きなだけ肉を食え」

「……」

業人はしばらく黙っていたが、焼かれたハラミを口に入れ、静かに立ち上がる。

「……親父」

「なんじゃ」

「……無職に肉を食わせても、無職のままだったよ」

「お前ぇぇぇぇぇ!!!」

焼肉は手元のトングを放り投げ、網の上のソーセージを空中キャッチして叫んだ。

「このバカタレ!! 」

「馬鹿息子で悪かったな!!!!」

ちゃんちゃん

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