また物語に出会えるように

sui

また物語に出会えるように

物語の国に迷い込めなくなった人がいました。

かつては本の森を自由に歩き回り、言葉の光を拾い集めていたのに、あるときから森の入り口が見えなくなってしまったのです。


何度探しても、どこにも扉はありませんでした。

その人は静かに座り込みました。

「私はもう、物語に会えないんだ」と。


でもある日、足元に、小さな紙片が一枚、風に乗って舞い降りてきました。

それは、ほんの短い物語。

わずか数行の言葉。

その人は恐る恐る拾い上げ、そっと読んでみました。


……読めたのです。

たったそれだけのことが、その人の胸に小さな灯りをともしました。


読めた物語が一つ、また一つと増えていくたび、森の入り口にほんの少しだけ霧が晴れていきました。

「私は、まだ大丈夫かもしれない。」


それからその人は、自分でも小さな紙片を作りはじめました。

言葉を並べて、短い物語を編み、そっと風に乗せたのです。


誰か、森の入り口で迷っている人のところへ届くように。

誰かがまた物語に出会えるように。

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また物語に出会えるように sui @uni003

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