二次元の君と恋をした

@littleohisama

Prologue:未完の恋は、スマホの中で眠っていた

Prologue:未完の恋は、スマホの中で眠っていた


神田太陽は、眠れない夜に、いつもスマホを眺めていた。


ベッドに横になり、ただ天井を見つめる。

明日も学校。

また誰かの笑い声に傷つき、何も言えずに帰ってくるだけの一日が始まる。


だけど、ひとつだけ太陽の心を救ってくれる場所があった。

それは、ある“漫画アプリ”。


中学の頃からずっと使っていた。

話題作を追うわけでも、ランキングの上位をチェックするわけでもない。

彼が毎晩のように開いていたのは、ひとつの古い恋愛漫画だった。


タイトルは――

『君と数センチメートルの恋をする』


この作品を知っている人は少ない。

作画は綺麗だが地味で、展開も静か。だけど、読むたびに胸が締めつけられるような、あたたかい痛みが残る。


太陽は、その漫画のヒロイン・南川鈴音に、何度も救われていた。

彼女の優しさ、傷つきながらも笑う姿、誰よりも誰かを想い続ける姿勢。


でも――その漫画は未完だった。


第28話で、物語は突然止まっている。


更新の予定は未定。

公式には「作者急病のため連載休止中」とだけ書かれているが、ネットの噂ではすでに作者は亡くなったとも言われていた。


物語の最後で、主人公・橘ユウマが事故に遭う直前。

鈴音が名前を呼ぼうとした、その1コマで、物語は途切れていた。


「どうして……」


太陽はそのページを、何度も何度も繰り返し見ていた。

続きを読みたい。

でも、もう読めない。

彼女の声が、もう届かない。


そう思っていた。


その夜。

太陽のスマホ画面が、突然、白く光った。


目を細めると、画面が滲むように揺らめき、耳元でかすかな声がした。


「……たすけて……」


その瞬間、太陽の視界が真っ白になり、世界は音を失った。


次に目を開けたとき、そこは――


彼が“読んでいたはずの漫画”の世界だった。


そして目の前には、彼女がいた。

現実には存在しない、けれど何よりもリアルだった少女。

南川鈴音が、そこに立っていた。


「……やっと、来てくれたんだね」


そう言って、彼女は泣きそうな顔で笑った。

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