第3話 おっちゃんの話



おばあちゃんが降りた後、次にボクの隣を見つけて座ってきたのは、作業服のおっちゃんだった。


でもこの人はどかっと座ったあとに凄い怖い顔でじっと目を瞑っていた。



「............。」

「............。」




ガタンゴトン、ガタンゴトンと電車の進む音だけが響いてる。

ちらっとおっちゃんの方を覗くと、おっちゃんの手にも花があった。



「......なんだボウズ」

「っ!えっと、その花、なんていう花かなって......」

「...スイセン」

「スイセン...聞いた事あるような無いような?」

「んだよそれ」





呆れたようにまた目を瞑ってしまう。それでもボクは懲りずに話しかけた。



「おっちゃんはどこに行くの?」

「...さあな。ぶらぶらしてるだけだ。」

「...はっ!おっちゃんも電車好き!??」

「あぁ?なんでそうなるんだよ。別に好きでも嫌いでもねーよ。」




ぶっきらぼうなおっちゃんだけど、ボクが聞いたことにはちゃんと答えてくれる。

だからボクはまた果敢に話しかけた。



「その花、誰かに貰ったの?」

「あ?......確か後輩が持ってきたな。」

「こーはい?」

「仕事のな。...えぇっとボウズ、いくつだ?」

「やっつ!」

「じゃあ幼稚園でボウズより歳がチビの奴のこと。そいつが俺に贈ってきた。ったく、なんでこの花なんだよ」




そう花に向かって悪態をついているおっちゃんにボクは焦って



「花には花言葉ってのがあるんだって!」

「花言葉?」

「さっきね教えてもらったの。花には意味とかがあって誰かに贈る時にそれを選ぶんだって!」




おっちゃんがはじめてボクの方をしっかり見て、話を聞いてくれた。その顔はどこか驚いてるような顔だった。



「おっちゃん、スイセンの花言葉ってなに?」






「......尊敬」






尊敬ってなんだっけ?

そう1人でモヤモヤしていると



「んだよアイツ......あんなに厳しくしごいたってのに」



あっははと掠れた声で笑ったおっちゃんはとても嬉しそうに下を向いてスイセンを見つめてた。

すると、アナウンスが流れてきてた



おっちゃんが立ち上がる



「ありがとな、ボウズ。

行くとこ決まったわ」

「ほんと?よかった!じゃあねおっちゃん。

バイバイ!」

「ばいばい」



降りていくおっちゃんの背中は入ってきた時よりずっと広く大きく見えた。

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