第2話 夜の訪問者
朝、まだ風が冷たい。
彩絵が服を整え、ランドセルのポケットに小さく折った手紙をそっと滑り込ませている。
その動きを眺めながら、俺は湯気の立つ味噌汁に箸をのばした。
「パパ。今日ね、給食カレーなんだって」
「へえ、いいな。俺も学校いこうかな?」
「それムリ〜!」
笑いながらパンの耳をちぎる彩絵。
変わらない朝の空気の中で、俺の耳に残っていたのは、昨夜の別の声だった。
「ごめんなさい。部屋、まちがえちゃったみたいです」
笑顔だったはずなのに、その瞳に少しだけ影が差していた。
何かが沈んでいた……。
「ねえ、またあのお姉さん来るかな?」
「……え?」
彩絵の声に反応した俺の手が、湯気の中で止まった。
パンをかじりながら、彼女は何でもないように続ける。
「やさしそうなお姉さんだったね。やっとパパの友達がきたと思って、ちょっとだけうれしかったのに」
「いや〜、間違えて来ちゃったみたいだしな!もう来ないんじゃないかな……」
彩絵は、何も知らない。
でも、彩絵なりに何かを感じたのかもしれない。
昨夜の声が、俺の中にもまだ残っていた。
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