第15話 武器を選ぶ美晴

 翌朝。梅雨初期の弱い雨が降る生温い朝。

 環とピヨが朝食後にダイニングでコーヒーのお代わりを飲んでいると、約束通りの時間に飛鳥美晴がやってきた。


 長めのセミロングの髪を後ろにまとめ、動きやすいジャージ素材のウェアを着ている。


 ダンジョンに潜るには軽装といわれるかもしれない。だが、ここのダンジョンの2層目までは暑くも寒くもないし、雨も降らない。何より魔物も大したことがない。

 ついでに虫も出ないから虫除けスプレーも不要である。


 お互いに挨拶を交わし、ガレージに向かう。



 その時、また来客を知らせるチャイムが鳴った。


「おっ、来ましたか留守番が」


 と環が玄関へ走り【冒険者ギルドほとぼり村支部】の、本日の留守番役の作家藤堂俊介先生が入ってきた。


「藤堂センセ、今日は留守番ありがとうございます」


 とわざとらしい猫撫で声の環だが


「約束通り、今日ドロップした肉をあとで分けてよ」


 などと、若い女の子に弱い藤堂らしい鼻の下の伸び方である。


「……って、えっ?アスカミ?」


 と廊下の奥の部屋にいた飛鳥美晴を見て固まった。


「藤堂先生はじめまして。飛鳥美晴です。私、先生の作品のファンなんです。週刊誌で連載している『私はただ見えるだけ』も楽しく読ませて頂いています」


 と自然に握手を交わした。


「……あぁあ、はじめまして。いつもテレビで見ています……」


 と藤堂は心ここに在らずで、地に足がついていない。

 このおっさん、美少女が大好きだからなぁ、とピヨは同情した。


 ふと環を見ると、不思議そうな表情で美晴を見ている。




「ガレージへ行きましょうか。センセ、夕方には戻りますからね」


 ふわふわと頷く藤堂に手を振り、ピヨたちはダンジョンへの入り口があるガレージに入った。

 

「では、レンタルの装備について説明します」


 と、環がラックの上の武器と防具の説明をして、美晴が手に取ってそれを着ける。


 防具は浅層用の軽くて動きやすい装備。

 ジャージを脱ぎ、ロンTの上に皮の鎧を付けてその上にジャージを着直すだけなのに、ピヨは着替えを覗いてしまった気分になって目を逸らした。


「今日は2層目の崖の穴で宝探しの予定なので、短めの剣がいいと思います」


 と言う環。天井が低い場所では近接武器が有利なのだ。


「去年の大河で練習した時、薙刀のスジの良さを褒められたんですが、残念です」


 美晴が雑に並べられた片手剣に手を伸ばした。

 美晴はそのうちの1本、両刃の片手剣を手にしてうっとりと眺めている。


「その剣の名前は【カーネーション】。等級は準決勝セミファイナル級のダンジョンドロップね」


【カーネーション】は俗に言う魔剣で、中心から刃先に向かって赤から白のグラデーションが波打つ刀身を持つところから名付けられた。

 使用者が魔力を込めると、薄い防御膜が体を覆う効果があり、もちろん、切れ味は申し分ない。


「素敵です。これをお借りします」という美晴が


「環さん、出来れば今日一日、戦い方のお手本を見せていただけませんか?」


 と付け加える。


「ならば私も今日の武器はこれにします」


 と環も同じ片手剣を手に取った。

 片手剣【虎河豚とらふぐ】白っぽい刃の中央部に黒い丸の斑点が不規則に並んでいる。

 これは【準々決勝クォーターファイナル】級の魔剣であり、斬った相手に一定確率で毒の付与がある。

 さすがに元日本ランキング一桁、弘法は筆を選ばずと言ったところか……。



 飛鳥美晴と宮本環、今回も撮影役のピヨを先頭にほとぼり村ダンジョンへと入る。

 

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