第2章 梅雨時の役者馬鹿

第14話 例の分類とピヨ

「彼女って、あの例の分類では何処に入るんでしょうね」


 リビングのソファで必要な書類に記入をしている若い女を、宮本環とピヨこと雛森達朗は台所でお茶を用意しながら覗き見ている。


「それってKT/CD理論の事ですか?」


 と聞き返すピヨ。

 環はニヤけている。


 KT/CD理論とは、温州トド助(藤堂俊介)氏提唱する顔を分類する方法である。

 目から上がキツネっぽいかタヌキっぽいかで分類し、鼻から下が長くて犬っぽいか、短くて猫っぽいかを分類する。


「キツネっぽくもあるし、タヌキっぽくもある。犬が猫かもどちらとも言えますよね」


 と小声で言うピヨに


「ほら藤堂センセが言っていたでしょ、本物の美人はって……その例がああいう顔なのよ」


 と環も小声だ。




 飛鳥美晴。通称アスカミ、若手女優だ。

 15歳で役者デビューし、順調にドラマ出演を重ねた後、ついに昨年の大河ドラマの淀君役の怪演が大評判になり、大女優の仲間入りをした。


 だが、これからの出演予定は目白押しといった未来は簡単に崩れ落ちる。

 3月に報じられた不倫スキャンダルである。


 お相手は大河ドラマで共演した大野治長役で既婚の俳優、白木ロジャー。お互いを淀殿、修理しゅりと呼び合う関係だったとか……。




「ダンジョンでレベルを上げると、芸能に役立つってホントですか?」


 飛鳥美晴は背筋を伸ばし、ティーカップに口をつけると「美味しい」と微笑む。

 ピヨには彼女の周りの音が消えたように感じる。

 コレがKT/CD理論では分類できない美しさかぁ。


「……芸能に役立つかはわかりませんが、自分の体を思い通りに動かせる様になるとは云われています」


 とピヨが返すと


「それですよ。前の現場で【芸能界冒険者組合】の会長って人に聞いたんです。歩き方とか腕の上げ方とか、高ランクの冒険者の役者は監督の注文に対する再現性が高いって」


 いやぁ、何だその団体? とピヨが環を見ると


「元ランク一桁の笹本さんの弟がやっている団体ね」


 と環は前から知っていたみたいだ。

 高ランクだから知っていたのか、あるいはセレブが集まるこの村に赴任するから知ったのか。


「初めて会った時に、その会長は『華が無いのに、周りには人が集まる不思議な人』という印象でした。でも、何度か会うと気付くんです。この人、会う度に別人になってるって……」

「もちろん、顔や背の高さは同じなんです。だけど、太り方や表情、足の組み方から喋り方まで前の日から全く別人になっている」


「ゲームで例えれば、知力や器用さを育てた結果ね、それは」


 とは環の見解である。


「ええ、本人も言っていました。若い頃、冒険者として活躍してたから、これだけの事ができると」


「だから、この機会にダンジョンに潜ろうと思ったわけですね」

「はい。せっかくのこの期間に、ダンジョンに潜ろうと一念発起です。よろしくお願いします」


 と環とピヨに頭を下げた。



 せっかくのこの期間……と他人事のように言える彼女。

 自分の行いが招いた結果だろうに……というピヨによぎった思いは、飛鳥美晴の美しさの前に何処かに消えた。


 



【宣伝】


国境線が曖昧なんで、隙間に建国しちゃいます【更新中】

https://kakuyomu.jp/my/works/16818093076590977361



感情ダダ漏れの呪い状態で異世界行ったり来たり【更新中】

https://kakuyomu.jp/my/works/16818792436986324618



八百屋ダンジョンと幽体離脱【完結済】

https://kakuyomu.jp/my/works/16818093083333729150



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る