第12話 帰り道とKT/CD理論

「結局、強いヤツは強いって事だな」


 帰り道、藤堂がぽつりと呟いたら


「作家らしからぬ語彙ですね」と強いヤツ宮本環が返す。


 ピヨはハハハと小さく笑って返すが、身体がそれどころではない。風の剣や他のアクセサリーを環に返した後は、自分の身体が重いのだ。


「そりゃそうだ。あのデカい化け物を一瞬で倒すヤツをどう言い表せばいいのか、僕は逆に教えてほしいよ」


 藤堂が化け物と言っているのは1層目のボス、プチサラマンダーの事である。

 だが、環からすればあの程度の魔物は、雑魚中の雑魚なのだろう。



 雑談を繰り返しながら帰り道をのんびり歩く。

 やる気の無くなった藤堂と、全身の重さがきついピヨを思っての速さなのだろう。時折り環が駆け出して、魔物退治をしている音が聞こえた。




「それで……センセはどうやって現役アイドルに手を出したんですか?」


 ピヨが先程魔物が現れて中断した藤堂の話をぶり返した。

「えっ?」と驚く藤堂。


「ほら『踏み入れちゃいけない領域』って、そういう意味なんじゃないんですか?」


 俺の問いに「あはは、そういうことか」と藤堂が笑う。


「僕がやった踏み入れちゃいけない領域ってのはね……実在するっぽいアイドルを使った二次小説を書いたんだよ、小説投稿サイトに……」


 と恥ずかしそうに打ち明けた。


 藤堂俊介という名を伏せて描かれた小説は『坂を登るおっさん』というタイトルの小説である。

 中年男と女子高生の体が入れ替わった後に、女子高生の姿になったおっさんがオーディションを勝ち抜き、トップアイドルになるまでの話だ。


「ありがちですね……」と黙って聞いていた環がつぶやいたので、


「単なる、中年オタの願望まみれのサクセスストーリーにならない様に、主人公2人の他に語り手を増やして変化をつけたんだけどなぁ」


 と藤堂が天を仰いだ。

 箸(単行本化)にも棒(コミカライズ)にもかからずに、長期の投稿を終えた『坂を登るおっさん』は、他の投稿作品の中に埋もれて消えた。


「それが8年くらい前かな」と藤堂。


「そして去年の事件に繋がるんですね」


 環に言われ、嫌そうに頷く藤堂。


「去年の春、ミツカレ ティンクルスターズ(MTS)の3期のあるメンバーが発表した小説がね……酷似していたんだよ『坂を登るおっさん』に……」


 結城明穂というメンバーが書いたとされる小説『ミツカレおっさん奮闘記〜そのアイドル、中身はおっさんです〜』は、実在のミツカレメンバーが登場する中身がウケて重版が決まるほどのヒットをした。


 アニメ化実写化間違いなし、と噂される頃に「むかし、小説投稿サイトで読んだ事がある」とSNSで騒がれだした。


「まぁ、ライブシーンやダンスレッスンシーンなんかのリアリティは向こうのほうが断然良かったんだよ」

「でも、根本の部分、入れ替わった事を正直に話してとしてオーディションを勝ち抜き、芸能界で生き抜いていく所は驚くほどそっくりだった」

「ありきたりな話だから偶然かもしれないとも思ったんだが……最後の人物紹介のところに1箇所、アルファベットのTCって文字が残っていたんだよね」


「TCって何ですか?」と環が尋ねると


「コミカライズやアニメ化された時用の、作者からの顔の仕様書だよ」


 とまた藤堂は恥ずかしそうに言う。





【KT/CD理論】(温州トド助のnoteより)


 美しいには多くの種類がある。


 そして美人にも、エキゾチック、気が強そう、透き通るほどの、守ってやりたくなる、などなどの美人がいる。

 だが、それを誰かが絵に起こそうとすると、原作者と作画やキャラデザイナーのイメージが乖離する場合が多々ある。


 その乖離を減らすための指標が【KT/CD理論】だ。


 具体的にいうとKTとは、キツネとタヌキの略である。

 顔の上半分の目と眉は、キツネっぽいか、タヌキっぽいかをKとTで表す。


 もう一つのCDは、猫(cat)と犬(dog)の略である。

 顔の下半分、鼻から下が短い猫顔か、長い犬顔かをCとDで表す。


 つまり、タヌキっぽいくりくりの瞳で、鼻から下が短いタイプの美人はTCタイプとなる。そしてキツネっぽい美人タイプだけど、鼻から下は長くも短くもどちらともいえるタイプは、Kタイプの美人となるのである。



 近年、アイドルオーディションの最終審査で落選した候補者が、SNSなどで自分よりもブスが合格したと騒ぎ立てるケースが時折り見受けられる。


 だが、私は言いたい。

 アイドルグループに必要なのは美人度合いの平均値を上げる事ではない。

 メンバーの顔にバリエーションをつける事なのだ。(プロデューサー好みの顔だけ揃った地方アイドルは多い)


 落選した候補者がすべき事は、自分と同系統の顔のより魅力的なメンバーが加入しているかどうかを確認する事であろう。





【投稿者からの補足】


自作『八百屋ダンジョンと幽体離脱』の人物紹介ページにも

KT/CD理論による表記があったりします


https://kakuyomu.jp/my/works/16818093083333729150

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る