第9話 センシティブなピヨ

 ピヨこと雛森達朗は【センシティブ】を持っている。入庁前の大学4年の時に訪れた【久留米ダンジョン】で獲得した【特技】だ。


 特技の内容は体質の変化で、武器やアイテム、補助魔法から得られるバフやデバフが倍掛けされるというものだ。


 何かのパラメータが4割増しになるアイテムなら、ピヨは1.4倍に1.4を掛けた1.96倍になる。逆に敵からスピードが半減する魔法を掛けられると、ピヨは0.5掛ける0.5で0.25倍のスピードになってしまう。

 この特技は冒険者の間では評価の分かれる能力で、今の知識が当時あったならばピヨはこれをもらう事がなかっただろう。




 なので、環から渡された日本刀を受け取ったピヨは、明らかな自身の変化に戸惑っている。


「環さん、この刀なんなんですか?」


「あっ、わかっちゃう? さすが【センシティブ】」


 とおちゃらける。


「この刀の名前は【風の剣 枳殻からたち】、確か斬れ味B、装備すると身体のスピードが50%増って日本刀で、ランクは準決勝セミファイナルクラスだったはず……」


 準決勝セミファイナルクラスにグリップテープ巻いちゃうの? というピヨと藤堂の呆れ顔は無視して環は続ける。


「思った以上に敵に近づいちゃうから注意ね」


 環はピヨのヘルメットからアクションカメラを取り外し藤堂の横に並んで「では、参りましょー」と右手を突き上げた。

 ピヨの戦闘を撮影するようだ。




 覚悟を決めたピヨは後ろを放っておいて前に進むことにする。


 膝あたりまでの長さの雑草の中を進み、奇妙な縞模様の大岩の横を過ぎる。


「マッピングは済んでいるから、好きに進んでいいよ」


 と、のんびりついてくる2人の話声が聞こえる。


「昨日のサイコロでキャラ名決めるヤツって、外国人の名前はどうやって決めるんですか?」


「表1に36の都市名が書かれた表があって、同じく36の事象が書かれた表2がある」


 藤堂の話も気になるが、ピヨの目の前に巨大なイノシシが現れた。頭を低く下げて、荒い鼻息が少し離れたこちらまで聞こえる。


「サイコロを振って出た目で【ロンドンの鉄道駅】とか【デリーの動物園】とかの項目になる。後でそれをネットで調べるワケだ」


 鞘から刀を抜き、こちらに駆けてくるレッドボアに剣先を向けた。


「その苗字に合わせてファーストネームも決めちゃえば、外国人名もなんとかなる」


 うげっ、身体が軽い。

 イノシシの突撃をすぐ左に避けて前足の膝上あたりを薙ぎ斬ると、勢いよく転び起きあがれない。


「口に出して読んでみて、しっくりきたら命名完了」


 倒れたレッドボアの首にグサリと真上から刀を突き刺すと、魔物は光の粒になってダンジョンに溶けていき魔石に変わった。


 ピヨの戦闘はなかったかのようにまだ会話を続ける環と藤堂。



「相変わらずテキトーですね。さすが大作家」

「元だよ、元大作家。あの騒動以来、僕は大したヒット作は出してないからね……」


 寂しそうな藤堂の言葉に


「でもセンセは悪くないんでしょ?」

「そう、僕は悪くない。だから、本来この村に滞在できる稼ぎはないのに、この村でずっと生活できてるんだよ」


 ピヨはレッドボアの魔石を拾いながらも、後ろの会話が気になっている。


 騒動ってなんだ?

 悪くないからここで生活できてる?


「どういうこと?」ピヨの呟きに、2人は動きを止める。


「あんだけ騒ぎになったのに、君は知らないのか?」

「えっ? ピヨってドルオタなのに、去年のあの騒動を知らないの?」


 去年……?

 確かダンジョンからの素材の流入が激増したせいで、ピヨが所属していたダンジョン管理四課は激務になったんだよなぁ。

 アイテム激増の原因は、目の前にいる宮本環が考案したダンジョンのスタンピード対策のトンネル、通称宮本システムのせいである。


 連日夜中までの残業。脱落していく同僚たち。さらに激務は激務になった。


 昨年末に予算が付き人員増で余裕はできたが、

それまでの数ヶ月はニュースなんて見ている暇なんて無かったからなぁ……。


「仕方ないなぁ……」と頭を掻きながら、作家藤堂俊介は話始めた。






 藤堂俊介の名付け表【外国人編】


 詳しくはサイコロを振った後に調べてください。


 振ったサイコロが2-5-1-3だったら

『ブリュッセルの市長の名前』

 となります。


 そこからググってください。

 



1-1ロンドン 1-2パリ 1-3ローマ 1-4マドリッド 1-5リスボン 1-6ベルリン

2-1プラハ 2-2ウィーン 2-3ストックホルム 2-4オスロ 2-5ブリュッセル 2-6アムステルダム

3-1イスタンブール 3-2デリー 3-3モスクワ 3-4バンコック 3-5クアラルンプール 3-6マニラ

4-1タイペイ 4-2ペキン 4-3ソウル 4-4カイロ 4-5リオデジャネイロ 4-6メキシコシティ

5-1バハマ 5-2ブエノスアイレス 5-3マイアミ 5-4ヒューストン 5-5サンフランシスコ 5-6ロサンゼルス

6-1アトランタ 6-2シカゴ 6-3オタワ 6-4シアトル 6-5ニューヨーク 6-6ワシントン


【の】

1-1鉄道駅 1-2大学 1-3市長の苗字 1-4最寄の空港 1-5近くの海岸 1-6大きな川

2-1スポーツチームの監督 2-2日本人学校の住所 2-3地下鉄の駅 2-4教会(宗教施設)2-5港 2-6中心部の公園

3-1風料理店名(東京)3-2風料理店名(大阪)3-3一番近くの自動車会社 3-4F-1ドライバー 3-5大きな病院 3-6サッカー選手

4-1金メダリスト 4-2小説家 4-3映画監督 4-4遊園地 4-5水族館 4-6動物園

5-1製薬会社 5-2コンビニ 5-3料理名 5-4女優 5-5俳優 5-6コメディアン

6-1消火器を何と言うか 6-2くるぶしを何と言うか 6-3有名な酒 6-4有名な辞書 6-5香辛料(ソース)6-6イヌの固有種

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る