ほとぼり村ダンジョンのピヨ

まりも緑太郎

第1章 春先のハードボイルド作家

第1話 庁舎の屋上の雛森

【前書き】

今作は読切 デッドエンド計画


https://kakuyomu.jp/works/16818093084430959425/episodes/16818093084430989694


の続きの物語です。

読んでもらえるとより楽しめます。






 同期が言っていた噂だと、重要な人事の話は屋上でされるものらしい。


 ダンジョン庁に勤める若手公務員の雛森達朗は、ダンジョン管理部管理六課の坂田課長に声を掛けられて、庁舎の屋上に連れ出された。


 ダンジョン管理六課は、新規に発見されたダンジョンにダンジョン庁の支部、いわゆる【冒険者ギルド】と呼ばれる建物を建てる仕事をしている部署だ。

 達朗の所属する、ダンジョンのドロップアイテムを買い取り管理するダンジョン管理四課とはあまり関係が無い。




 その関係が薄い課長が今、俺を連れて屋上で二人きりである。


「雛森くんって歳いくつ?」


 あったか〜い缶コーヒーを冷たいプラスチック製のベンチに並んで座って飲みながら、坂田課長がそう訊いてきた。

 2月なのだ。別に屋上じゃなくてもいいだろうに、課長になってまだ一年の彼は、こういう重要な人事の話をする事に憧れがあったのかもしれない。


「新卒で入って2年なので、24です」


「で、最近実家に帰ってる?」


 矢継ぎ早の質問。俺はむむむと悩んでしまう。


 この流れは地方だわ。


「ウチは両親とは死別してますから、実家はありません」


 と俺が言うと「あっ悪い」と右手を挙げてきた。


「じゃあさ、【ほとぼり村】って知ってる?」


 田舎滞在型の体験施設か何かだろうか?


「何ですかそれ?どこにあるんですか?」


 達朗の質問に「オレも教えてもらえないんだわ」と坂田課長が背伸びをした。


「ただ、オレの知ってる噂話をまとめるとだな……。この国のセレブがスキャンダルを起こした時に、ほとぼりが冷めるまで潜伏する場所、それが【ほとぼり村】なんだそうだ」


 60メートル程のビルのくそ寒い屋上で、この男は何を語っているのだろうか?

 達朗は缶コーヒーを口にするがもう既にぬるい。


「でな、オレの元部下の一人がそこで静養をしていたんだが……そこで……」


 坂田課長は勿体ぶって体を達朗に向ける。


「新しくダンジョンを見つけたんだと」


 嫌そうに話す課長を見るに、元部下は坂田課長が関わりたくない人物なのだろう。

 そういう人物で課長が距離を置きたがっている人物……あっ、宮本さんか。


「宮本さんですか?」


 坂田課長は狼狽えて目を逸らした。




 宮本さんのフルネームは宮本環という。達朗の4年先輩で、あの【宮本システム】の発案者である。そのせいで日本の冒険者ランキング1位になり、ついで一躍時の人になり、その後表舞台から消えた。


「ひとり暮らしで、恋人も居なくて友達も少なそう。何より事務処理が得意で口が堅そうなのって、雛森くん位しか居なくてさ」


 まぁ、彼女は居ませんけど、友達も少ないですけど……。


「という事で、来月一日からお願いね。宮本には連絡しておくから、連絡先ちょうだいな」


 と達朗からスマホを奪い取り、ごちゃごちゃと操作する。


「あの、その人事まだお受けするとは言ってないんですけど」


「大丈夫、大丈夫、2年我慢したら本庁に帰って来れるから」


 会話になっていない。

 課長が立ち上がり、達朗の肩をぽんぽんと叩いたあと、自販機の横のゴミ箱に缶を入れて出て行った。


 達朗は空を向いて「あぁっ」と声を出してみる。

 あぁ厄介な事になってまいりました。

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