『時空犯罪者のおしおき』

やましん(テンパー)

『時空犯罪者のおしおき』

    

 『あまりに暑いので、です。』 





 むかしの仕事仲間さんたちと、久しぶりの夕暮れパーティーにとしゃれこんだのだが、これが明らかに異常であった。


 つまり、パーティー会場が、どうやら、この世のものではなかったのである。理由は、わからないよ。


 海沿いにあるお洒落な、ながっぽその建物である。かつて行ったことも見たこともない。


 古いトンネルを抜けて行くしかないらしい。


 たしかに、ビルがあったのである。


 しかし、その内部は、けっこう不可思議なくらいに広い。


 よく趣旨のわからない、小さなお店がたくさんある。


 何の文字かわからない本。


 題名が読めない、摩訶不思議なジャケットのレコード。


 まるで名前の想像が付かないお花たち。


 みたことのない、意味不明な生き物。


 BGMに掛かってる音楽は、平均律でも、12音音楽でも、民族音楽でもなさそうで、また、つまり、言葉が、地球の言語とは思いにくいような発声なのである。たぶん、人類には発音不可能だと思う。


 こうした、おもちゃみたいな世界が、実は、ぼくは大好きである。


 だから、当然のように、あちこちでひっかかる。


 知人たちが、企んだに違いなかった。  


 行き先は、12階の、レストラン『あまやぶり』という、これまた意味がわからない名前のお店だと聞いていたから、ま、はぐれても、わからないはずはないはずないわけなのであった。


 ところが、これが、分からなくなった。


 まず、階段が無くなった。


 いや、有るのだが、どの階段も、登り始めると、下に向かって回転をし始める。エスカレーターみたいだが、回転があまりに早いので、なかなか上にあがれない。


 ぼくは、68歳である。


 体力にはまったく自信がない。


 仕方がないから、見当たった店員さまらしき方に声をかけたのである。


 『あの、12階の、レストラン『あまやぶり』に行きたいのですが。』


 『ああ。それは、やめておきなさいまし。いまなら、降りる道をお教えします。』


 『予約しているのですが。』


 『他の方は、すでに、さきほど、上がりましたが、あなただけ遅れたのです。幸運でした。あの方々は、魔空大魔王のおしおきを頂くことになります。』


 『魔空大魔王?』


 『はい。魔空大魔王さまは、このあたりの主さまなのですが、近年、人間が無礼である、とお怒りなのです。だから、あの、方々は、助かりません。あなた様が、勇気を見せても駄目です。あなたは、ほんと幸運だった。さあ、ここから、階段を駆け降りなさい。生き残る唯一の機会です。』


 むむ。あの友人たちは、一人を除いて、ぼくの早期退職を無意識にせよ、推進したしなあ。


 試しに降りてみるか。


 なにかが、分かるかもしれない。


 ぼくは、正義の味方ではないし、いささか、やっかみはあった。さっきも、誰も声をかけてくれたりはしなかった。


 まあ、なにかの間違いだろうが、大したことではあるまい。いったん降りて、また、上がればよいではないか。


 なので、ぼくは、階段を駆け降りたのである。




 『はあ、はあ。降りるのもきついなあ。』


 ぼくは、ビルから一旦外に出て、上を見上げた。


 一番上の階の窓ガラスから、誰かが叫んでいるようにも見えたが、良く分からない。


 すると、間も無くして、ぐらぐらとビルが揺らぎ、崩れ落ちてきた。


 『わー!』


 ぼくは、またまた走った。


 それから、また、ちょっと怪談を降りて、海の反対側に出るトンネルに潜った。




  😱😱😱😱😱😱😱😱😱😱😱😱😱😱😱😱



 トンネルという場所は、なにかと、曰く因縁が語られやすいが、そうしたものは、単なる比喩であり、足らわざることである。つまり、真実ではない。


 しかし、事故が起こると、なかなか厄介な場所である。


 だから、ぼくだけは、トンネルから出てくることができなくなったのであった。



 他の人たちのことなど、知る由もない。





       😭😭😭😭😭😭😭 



               おしまい




       

ひぐれ新報


 『一昨晩遅く、‘’反対岬‘’でがけ崩れがあった。通行禁止のトンネルも巻き込まれて崩壊した。近くにいたらしいひとりの行方がわかっていないが、捜索はかなり困難と見られている。』

 


 

 





         😤

















 


 


 

 

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『時空犯罪者のおしおき』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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