第5話 猫島
その日は何も起こらず、啓次郎は仙台へ帰ることにした。
その後、啓次郎に鈴子から時折ご挨拶程度の電話は来るが、特に変わった様子もなく過ごしていた。
翌日、鈴子の家に近所から仲良しの奥様二人が遊びに来た、手作りクッキーを持ち寄りお茶会をする事になった。
友達の一人が鈴子に子供はまだかなどと囃し立て、はしゃいで喋りあっていると、そこへ電話がなった。
鈴子は紅茶を一口呑むと席を立ち受話器に耳を当てると、女の声で拾った猫を処分して欲しいと、それだけ言うと電話は切れた。
————細い声の女だった。
一ヶ月後、
早朝、激しく鳴り続ける電話のベル!
啓次郎は不機嫌そうにベッドから起き上った。
このところ一般診療が終ってから深夜遅くまで動物生態の研究に没頭していた為、疲れが溜まったていたのだ。
「はい、はいっ、今出ますよ!こんなに
ゆっくり受話器を耳に当てると、鈴子の声だった。
「ごめんなさい、こんなに
「それで、今度は何が入ってたんだ?」
「それが一枚の写真だけなのよ」
「写真?何が写ってるの?」
「島みたい・・・でもどこかで見た事あるような気がするわ」
島は鈴子が生まれた浦川町から船で一時間余り行った所に浮かぶ様に見える浮島だった。別名、猫島と呼ばれる、猫が島民よりも多い為そう呼ぶようになったのだ。もともとこの島は普通の島だったのだが、陸地で飼われていた猫を訳ありで島に放すようになり、それ以来観光を装い、島に次々と訳あり買主が猫を捨てるようになったのだ。
捨てられた猫は子を産みいつのまにか島民よりも猫の数が多くなったという訳だ。
翌日、啓次郎はまた副院長に病院を任せると、仙台を立った。今度は、一ヶ月滞在する事にした。
——————————*
「しかし、何故島の写真を送ってきたんだろうか?」
啓次郎と鈴子は腕組みをして、考え込むように写真を見つめていた。
「ねぇ啓次郎さん、そう言えば近所に変な家があるのよ、時々夜中になると動物のような奇声が聞こえてくるのよ、そこ怪しいと思わない、そして猫を拾ったゴミ集積所が近いのよ、まずは集積所に行って見ない!」
啓次郎と鈴子は家を出て歩き、少し離れたゴミ集積所へ着いた。
そこから見える家の前で立ち止まった。家は蔦で覆われたこの辺りの住宅に似つかわしくない古びた佇まいをしている。
啓次郎と鈴子は蔦の家の門に近いた。
鈴子が何気に眼線を上に向けた時、
「あっ!あぶない」
女の子らしい子供が屋根に登って遊んでいたのだ。
鈴子の視線に気づいた女の子が屋根を降りようとした。
その時!誤って足を踏み外した。
女の子は二階建ての屋根からまっさかさまに落ちるかと思った。
ところが!一瞬身を
「なっ、何だあれは・・・・?」
その様子を見ていた啓次郎は呆気に取られ、しばらくの間、少女が走り去った裏庭を呆然と見つめていた。
ふと我に返った啓次郎は、慌てて裏庭に走り去る少女の姿を追った。が、何処にも見当たらない、啓次郎は裏庭を所有する主を尋ねてみたが応答がない、啓次郎は怪しんでは見るが、少女の隠れる用な所は何処にもない、ふと見上げると一箇所雨戸を締め切っている部屋があった。
啓次郎は蔦の家を探ろうとしたが、陽も暮れ初めたので、啓次郎はビジネスホテルへ一旦戻る事にし、鈴子を見送った。
翌日、宿泊先のフロントから外線が繋がった。
鈴子からだった。
写真の送り主からの電話で、会って話したい事があると言う事を伝えてきた。。
二人は待ち合わせの場所へ向かった。
だが、約束の時間になっても現れず、一時間過ぎて待っても見たが、結局、現れることはなかった。
啓次郎は、やはり悪戯ではないかと鈴子に言った。
仕方なく、鈴子は啓次郎と別れ家に戻った。
鈴子が家に着き、リビングのソファーに腰を下ろそうとした瞬間、電話のベルがなった。
鈴子が慌てて電話に出る、
「はい、もしもし・・・」
「・・・・・」
「もしもし、どちら様ですか?」
「・・・あの、小山田です。」
鈴子は、意外な人物からの電話に驚いた。
「えっ、はい、こんにちは、先日はどうも・・何か?」
「あの、実は昨日電話したのは、私なんです・・・」
鈴子は一瞬なんの事か分からなかった。だが、頭をフル回転すると猫の件と悟った。
「もしかして、子猫の事で電話して来られたは、小山田さんですか?」
「はい、ごめんなさい何か失礼な事をして、お会いして話そうかと思ったのですけど、誰かに見られてもと思い返しまして電話で話す事にしました」
鈴子は、小山田みさこの神妙な口調に、緊張が走った。
みさこは、鈴子がゴミ集積所で助けた猫の事に触れてきた。
「鈴子さん、猫をどうしました」
鈴子は体調を悪くした猫を動物病院に連れて行ったが助からなかった事を伝えてると、死体をどこにやったと険しい声で言ってきた。
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