キミとの約束

こころ

キミとの約束

「ねえ、俺の名前呼んでよ」



休み時間。

教室で陸と話してる俺の元にやってきて、突然こんな事を言い出したガタイのいい強面のイケメン。


上履きの色は黄色

て、事は1年。


一つ下か。


…って、いうか

「んえ?だれ?」

「1のA、石田真尋」

「え?なんの用?」

「名前。俺の名前、呼んで?」

「なんで?笑」

「いーから、早く」

「…まひろ?」


俺がそう呟くと、大きな手で自分の口元を抑えながら俺の頭をぽんぽんと叩き、無言で教室を出ていった。


「なにあれ?」

「わっかんね?笑」


全然知らないやつに、急に名前呼べとか言われて頭ぽんぽんされるとか、どーいうこと?


でも、なんか、、。

嫌じゃなかった。


それに

いしだまひろ。

いしだまひろ。


まひろ………。


聞き覚えがある様な。


最近じゃない。

もっと昔。

小さい頃。



…あ。

もしかして、、、。


思い当たる人物が頭に浮かび、いしだまひろを追いかけようと教室の出入口に向かうとチャイムが鳴り始めて。

そのチャイムを無視して教室を飛び出した所で

「はーい、チャイムなってるよー」

と、笑顔の担任に首根っこ掴まれて教室に引き戻された。


「ちょっ、!こがちゃん!」

「こがちゃんじゃない。古賀先生。浅倉くん授業始まるよ?席着いて」


可愛い顔してやることがこわい。

これ以上こがちゃん怒らせると後がやばいの知ってるから。

ほんとは“いしだまひろ”を追いかけたかったけど、仕方なく自分の席へ腰を下ろした。


「なに?あいつ知り合いだったの?」

「んー?昔一緒に遊んだやつと同じ名前だったからさ、ちょっと気になっちゃって」


でもやっぱ違うのかな。

俺の知ってるまひろはめちゃくちゃ笑う子だったのに、あいつ無表情だったしなぁ。


「気になるんだったら会いに行けばいいじゃん」

「…そだねぇ。そーするわ。放課後1年とこ行ってみる」


「んー残念だけど、浅倉くんに放課後はないよ?」


「こ、こがちゃ……」

「俺の授業中におしゃべりなんていい度胸だね?」

「や、これにはね、ふかぁぁい訳があって、、!な?りく……って、おい!」


しれっと前を向いてノートを執っている陸に文句を言ったが、完全に無視されて。


「浅倉くん。とりあえず、放課後数学準備室に来てね?絶対。」


小首を傾げながら笑うこがちゃんからは、怒りのオーラがハッキリとみえる。


そんなこがちゃんに「はぁい」と、返事する以外の選択肢は俺になかった。




「こがちゃん!おわった!!」

「おー、仕事が速いね!ありがとう」

「んじゃあ帰ってもい?」

「はーい。授業中の私語には気をつけてね!」

「も〜二度としない!」


ようやくこがちゃんのお手伝いが終わり、帰路に着く。


こがちゃんのお手伝いをしている間も、こうして家に向かって歩いている間も、ずっと頭の中にいるのは、いしだまひろで。


結局今日は会えなかったなぁ。


…いしだまひろって、

やっぱりあのまひろなのかな。



俺とまひろが出会ったのは俺が7歳の夏。

友達の家から我が家に帰る途中の公園で、1人寂しそうにブランコを漕いでいる子がいて。


ひとりで遊んでる。

見かけない子だな。


気になった俺がまひろに近付き声をかけた事がきっかけだった。


まひろは遠いところから休みの間だけこちらに来ているようで、友達がおらず1人で遊んでいたらしい。


友達になろ?と言った俺の言葉に、満面の笑みで「うん!!」と答えてくれたのがとても印象的だった。


それからまひろが帰るまでの1週間、俺達はずっと一緒にいて。

まひろが帰る時、俺もまひろも恥ずかしい程の大号泣だった事を覚えている。


あれ、、?

確かその時、何かまひろが言ってた気がする。


とても大切な事。


別れる悲しみが大きすぎてその時の記憶がかなり曖昧なんだよな。


なんて言ってたっけ、、、。


そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか思い出の公園まで着いていた。


そうそう、ここで会ったんだよな。


中学になってから公園で遊ぶ事がなくなって。

行き帰りの風景化してしまった公園を久しぶりに覗いてみれば、そこには下を向いたまま大きな体で小さくブランコを漕ぐいしだまひろの姿があった。


静かに俺は吸い寄せられるようにブランコへと近付いた。


「まひろ?」


小さく呟く俺の声にはっと顔を上げ、ふにゃっと笑ういしだまひろの顔を見て、あの頃の記憶が蘇る。


あ、そうだ。

あの時まひろが言ってた事思い出した。




「ねえりゅうとくん?ぼく、おおきくなったらぜったいりゅうとくんにあいにくるから、ぼくとけっこんしてほしい!」

「けっこん?」

「うん!だいすきなひととずっとずっといっしょにいることだよ!」

「おれまひろとずっといっしょにいたい。けっこんする!」

「ぼくのことわすれないでね」

「うん!」

「でも、もしもぼくのことわすれちゃっても、ぼくのなまえおもいだせるように、なまえよんでっておねがいするから!」

「そしたら、おれぜったいまひろのことおもいだすね!」

「やくそく!!」




「りゅうと、俺の事思い出した?」


気付くと、俺の目の前に優しい笑顔で立っているまひろ。


「…思い出した」

「あはっ、よかった」

「大切な思い出だったのに、忘れてごめん」

「いーよ。俺の名前呼んで思い出してくれたんでしょ?」


約束守ってくれたじゃんって優しく頭を撫でてくれて。

不覚にもキュンってしちゃった俺。


そんな俺を見てニヤッと笑ったまひろが耳元で囁いた。





「結婚の約束。俺本気だから、覚悟しといてね」

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キミとの約束 こころ @coco07ro

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