第7話 出来の悪い俺に告白を

 今日も大辺が作った料理を屋上で食べていた。

 花林は来なかった。そりゃあ昨日、あれだけ説教を垂れたらそうなるか。

 麦茶を飲んで空を見上げる。そこにあったのは雄大な入道雲だった。


 雲を見ると燐を思い出してしまう。

 小さかった燐と公園で雲を眺めていた。

 そのときの可愛かった笑みを、もしかしたらもう見れないかもしれない。悲しみが募る。

 お兄ちゃん。お兄ちゃんと無邪気に声をあげる燐はもうどこにもいないのか。

 

 呆然と新しい母親の作った弁当を見る。たしかに味は美味い。でもそれだけだった。

 大辺や南と家族になれるのだろうか。

 燐と家族になれてもいないのに。



 放課後の帰り。俺は南と一緒の電車に乗った。

「あっ、斎木くん」

「おう」

「……もしかしてですけど、一緒の電車に乗ろうとしてくれたんですか?」


 俺はつい南の顔を凝視してしまう。すると南は小首を傾げた。


「どうかしたんですか?」

「いや、別に。あと、俺はそこまで優しい人間じゃない。勘違いはやめてほしい」

 すると南がふふっと笑った。

「そういうことにしておきます」

「ったく」


 彼女の顔を見るとあのときの行為の意味を尋ねてしまいたくなってしまう。

 どうしてキスをしたのか。俺に好意があるのか。

 だけど結局尋ねられてはいない。そのことに自分は臆病だと思ってしまう。

 つまらない見栄やプライドだけが、俺へ指図してくる。


 もし違っていたらお前は恥ずかしい思いをするぞ、と。


 自宅の最寄り駅で降りて南とともに帰路に就く。

 すると南が空を見上げて喋り出す。


「すごく大きな雲ですね」

「……だからなんだよ」

「わたし、入道雲が好きなんです」

「――どうして?」


「自分が見える世界で唯一って言うほど壮大なものですから。宇宙とか地球はこれからの人生では絶対に見れないですからね」

 俺も一緒になって雲を見る。


「そうだな」


 見上げながら歩調を合わせる。


「あの、一つ言ってもいいですか」

「なんだよ」


「――わたし、斎木くんのことが好きです」


 蝉の鳴き声が聞こえだした。そのせいなのか分からないが、体温が上がったように思えた。


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