第4話 アイドル〈虚像〉
突然だが、花林はクラスの中心的存在だった。
そんな彼女がアイドルのオーディションを受けたい、という想いを抱いているのが噂になる。
だが、俺はそんなことどうでもよく、ただ昼飯を食べていた。いつもの屋上のベンチで。
「これ、大辺さんが作った厚焼き玉子か」
咀嚼しながら思う。味付けが濃いな。
「よっすー邪魔するで」
笑みを湛えながらやって来る花林。とても上機嫌だ。
「邪魔するなら帰ってくれ」
「は〜い。ってホンマに帰るか!」
なぜか関西弁のノリ全開な花林。ちょっとイラッとした。
「で、どうしたんだ?」
彼女が俺の横に座ってきた。持っていたコンビニ袋の中からカロリーメイトとウィンターゼリーを取り出した。明らかに食事カロリーを気にしたメニューだ。
「私、アイドル目指そうと思うの」
「あー噂になっていたあれか」
「……ねえ、どう思う?」
俺の顔を覗き込む。至近距離になってしまったが不思議と不快感はなかった。
「私が……アイドルやっていたら嫌いになる?」
「ならねぇよ。断言出来る」
「それはどうして?」
「夢を持つことは同時にその呪に囚われるということ。こんな格言がある。『深夜まで詞の勉強をやったあと、寝て起きても頭の中が詞のことでいっぱいなら貴方は作詞家の才能がある』っていう言葉。夢を持つことはつまりそのことに病的なまでに熱中するわけだからさ。それが出来ている時点で充分凄い」
花林が目を丸くさせた。だが、そのあとに声を絞り出した。声は震えていた。
「わたし……どう答えたらいいか、正直分からないけど……でも、君が応援してくれるのは嬉しいよ」
「うん……」
俺は卵焼きをつかみ、「口開けて」と言った。花林は状況が読めずおそるおそる卵焼きを口内に入れた。すると幸せな笑みを見せた。食事でこんな表情になるなんて可愛い限りだ。
放課後。教室で悠馬がスマホをいじりながら言ってくる。
「なあ合コン行かね?」
「ふーん」
「相手は明城女子高校学校。偏差値75のおばけお嬢様学校だ。こりゃあ行くしかねえだろ」
「お化けなのかお嬢様なのかはっきりしてくれ」
そんな他愛のない話しをした後、俺たちは目的地のカラオケボックスへと向かった。
その門扉の近くでは女子グループが何個か出来ていた。
またしても驚いてしまった。
「お前は……」
南がいたのだ。終始ふくれっ面をしながら。
「どうして斎木くんがここに?」
「それはこっちのセリフなんだが……まあ、先に答えるか。興味はねえけど友達に誘われたから」
「わたしもそんな感じ」
俺と南は、有頂天になっているクラスメイトのことを遠巻きに見ていた。
「参加しなくちゃいけないのかな?」
「……二人抜けたぐらいで大事にはならないはず。行くか」
彼女は首肯しカラオケ店の裏側に行き抜け道を使って道路に出る。
「じゃあ。帰ろうか」
「そうだね」
俺たちはまっすぐ家に帰った。
家では義母が料理を作っていた。
なにかが焼けている香ばしい匂いが部屋中に充満している。
今日の料理はなんだろうか。そんな興味とともに調理中のフライパンを覗くとこれまた旨そうなエビチリだった。
「エビチリは好き?」
「あっ、はい……」
大辺が満足そうに微笑む。
「そう。良かった」
それからエビチリを皿に盛りつけて食卓に並べる。
「いっぱい食べな。おかわりたくさんあるよ」
「いただきます」
そうして南と一緒に食事を食べていた。
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