エピローグ:咲いた花は、祈りのかたち
風が止み、空が沈黙を守っていた。
神々も人も、ただその場に立ち尽くし、 金色の光に包まれていくアリアの姿を見守っていた。
フローラリアは一歩、静かにアリアに近づいた。 その手のひらには、一粒の種がそっと載っていた。
「これは、かつて“咲いてはいけない”と言われた花。 でも……あなたなら、きっと“意味を咲かせる”と信じてる」
アリアは頷き、胸元にその種を大切に抱きしめた。
すると、空の色が少しだけ変わった。 雲の隙間から差し込んだ光が、まるで何かを祝福するように 大地に長い影を落としていく。
地が震え、空が脈打った。
摂理が揺れたのではない。 摂理が、やさしく笑ったのだ。
――その瞬間。
アリアの小さな手の中で、種が花開いた。
それは、あの日、誰かのために命を願って咲いた “ユンファの花”だった。
けれど今度のそれは、 ひとつの命ではなく、“世界そのもの”を咲かせるための光だった。
そして、風が生まれた。
静かに、けれど確かに、世界中を巡る風が。
争いの残る村に吹き、忘れられた谷に届き、 神々の神殿の扉を揺らし、 小さな子が一輪の花を摘んで、誰かに微笑む場所にまで。
誰も言葉にはしなかったが、皆、知っていた。
「あの日、摂理は変わった」と。
もう、力だけが正義ではない。
もう、秩序だけが希望ではない。
もう、“存在してはならなかった命”が、 この世界でいちばん美しく、いちばん強い証明になったのだと。
神々の声が、静かに空に融けていった。
人々の祈りが、少しずつ、やわらかな形を取り戻していった。
そして、花は今も咲いている。
あの谷で。 あの丘で。 あの指切りを交わした星の下で。
小さな手が差し出されるたびに。 誰かを信じて笑うたびに。
咲いた花は、祈りのかたち。 そしてそれは、誰かを守りたかった、ひとつの家族の物語。
ユンファの花が咲くとき みみっく @mimikku666
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