わたしは、ここにいたかった

——あれ。 なんだろう、この気持ち。 あったかい、けど、ちょっと、さみしい…… でも、忘れたくない。だから、ぜんぶ、思い出しておきたい。


パンケーキの匂いがする。 朝の光、ぐちゃぐちゃな髪、ぴょんって跳んだ布団。


「パパ、起きてぇ!」 ……あの時は、なんであんなに叫んでたんだっけ。 そうだ、うれしくて。今日は、ただ“たのしい朝”だったから。


ユウが、お布団ごとだっこしてくれた。 あったかくて、ちょっと重たくて、でも、だいすきな重さ。


夕焼けの空を見ながら、なぞなぞしたの。 「いちばんあったかいもの、なーんだ?」 パパはね、「きみのぎゅーかな」って言ったんだよ。


うれしかったな。ちょっとだけ、胸が“きゅん”ってなって、苦しかった。


井戸の音がカポンって言ったとき、 わたし、「おみず、泣いてる?」って聞いたら、 パパ、真剣な顔して「ごめんね」って言った。


——わたし、あの時、すこしだけ、世界に“声がある”って思ったの。


森の中の、風がとおる場所。 あのとき、わたしが「ここ、パパのおなかだね」って言ったら、 パパ、変な顔して笑ってた。


ひみつの積み石、ふたりのうた。 だれも知らないけど、ここだけは、いつも“ふたり”でいられる気がした。


摂理あそび、大好きだった。 「今日は、空がピンクじゃないと、ダメなのです!」 わたしがそう言うと、世界がちょっと変わって見えた。


パパ、きっとわかってたよね。 遊びみたいに見えたけど、わたしの“本当”だったって。


夜、夢で泣いた日。 「パパがいなくなったら、どうしよう」って言っちゃった。 でも、パパは「わたしたちは、家族だろ?」って言ってくれた。


“どんな神様が現れても”って、そう言ってたよ。 だから、わたし……いま、ぜんぶ思い出してる。


だれかに“いていいよ”って言ってもらった日々。 パンケーキ、なぞなぞ、くすぐりモンスター、星の指きり。


それが、わたしの“すべて”だった。


だから、いま咲く。


「だって、ちゃんと……だいじに育てられたから。  わたしがここにいるって、  全部、ぜんぶ、しあわせのせいだから」


光が、胸からこぼれていく。 あったかい。こわい。けど、まっすぐ。 この世界が、わたしをすこしだけ許してくれた気がした。


だから、咲かせる。


「これは、パパとママと、わたしの祈り。  だいじだった日々が、わたしを守ってくれてる」


ユンファの花が、音もなく、開いた。

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