夏祭り
@amane404
一話完結
ねえ!こっちだよ!
わかんないよ…どこに行くの美海ちゃん、お祭りはもっとあっちでやるんだよ
知らないの?こっちからの方が花火が綺麗に見れるんだよ!もう、陸は私が教えてあげないとなんにも知らないんだから
ここだよ!もう誰も使ってない神社なんだって、ちょっと怖いけど2人なら大丈夫でしょ!
うん…でも、おばけが出そうで怖いよ…
もう!そんなんだから弱っちいままなんだよ!!陸は私がひっぱってあげないとどこにも行けないね
ほらもうちょっとだよ!花火!!
わぁ、きれい、ほんとにここだときれいに見れるんだね美海ちゃん
ほら!私の言った通りでしょ!陸だから特別に教えてあげるの!
教えてくれてありがとう、でもどうして急に?
だって、幼なじみでずっと一緒だったし、この前私が男子にいじわるされてる時、やめてって言ってくれたでしょ
いつもの陸ならそんなこと絶対にできないのに、弱っちいから!でもその時ほんとに嬉しかったんだよ
もう、いつも僕のこと弱っちいって言うよね…僕だってやれる時はやるんだから
ほらもう!花火に集中してよ!せっかく教えてあげたんだから
そうだね、こんなにきれいなのもう見れないかも
何よ、来年も来ればいいじゃない
いいの?
何のために陸に教えたのよ!来年もその次も一緒に行くのよ!
ありがとう、美海ちゃん、じゃあ約束ね
そうよ、約束!破ったらしょうちしないんだから!!
そう言い合って見た花火は人生の中で一番綺麗だった
そう言った次の月に美海ちゃんはほかの県に引っ越してしまったけれど…
だから約束は守れなかった
それがずっと僕の心にわだかまりを作っている
けれど、今年帰ってくるらしい
10年以上たって僕も23歳になった
美海ちゃんは覚えているだろうか
きっと美海ちゃんも大人の女性になっている
僕のことなんて気づかない可能性もある
引越してきた家に1度来てくれと母に美海ちゃんの母親から連絡があったそうだ
その時に誘ってみよう、なんて言ったって今日はそのお祭りの日なんだから
美海は亡くなりました
頭が真っ白になった
えっ、どうして…
幼馴染で仲良くしてもらっていた陸くんには話してもいいんだろうけれど、18歳の時に自殺してしまって…
遺書もなんにもなくて急に出かけてくるねって行ったっきり帰ってこなくなっちゃった
無理やり笑顔を作ろうとしている美海ちゃんのお母さんの目からは涙が溢れていた
5年経っても悲しみは全く癒えないらしい
えっと、もう大丈夫です
こちらこそ、弱気な自分をいつも活気づけてくれていた大切な存在でした
ご冥福をお祈りします
その後のことはよく覚えていない
お線香をあげさせてもらって
美海ちゃんの家を出た
自殺、僕には何も連絡はなかった
葬式も向こうの県で身内だけで済ませたらしい
もうこの世に美海ちゃんはいない
約束も守れない
あいにく、祭りは今日だった
街は賑わい、屋台が出ている、花火の時間ももうすぐだ
ただそこに美海ちゃんだけが居ない
(ねえ!こっちだよ!)
美海ちゃん?
嘘だ、そんなわけが無い
だって美海ちゃんはもうこの世に居ないんだから
(陸は私がひっぱってあげないとどこにも行けないね)
そうだよ
ずっと長い時間が経っても僕は弱いままだよ
(でもやる時はやるんでしょ)
それは…美海ちゃん、君がいたからだよ
(じゃあ、私のひみつの場所また教えてあげる)
(こっちだよ!早く!)
そっちは前行ったところと反対方向じゃないか、それに、そこには海しか無いんだよ、もう暗いし危ないよ
(だって私と2人なら怖くないでしょ)
本当に美海ちゃんがいる気がした
いや、本当に居たのだ
弱い僕をまた引っ張ってくれている
(ほら早く!花火始まっちゃうよ)
そうだね、早くいこう
花火の音を背に僕は海に入る
きっと美海ちゃんが最後に行ったのも海だ
やっと約束守れるね
(そうよ、引っ越しなんて思ってもみなかったんだから)
(それに、ごめんね、先にいっちゃって)
いいんだよ、また、秘密の場所教えてくれたし、僕のこと引っ張ってくれるんでしょ
また来年も見れるかな
(見れるわよ、だってこれからずっと一緒なんだもの)
そうだね、じゃああの約束これからはずっと守れるんだ
僕の体はどんどんと海に浸かっていく
もう肩まで浸かってあと一歩踏み出せばきっと僕も美海ちゃんと同じところにいくだろう
でもやっぱり怖いよ美海ちゃん
(ほんと陸は私がひっぱってあげないとどこにも行けないんだから)
(そんなんだから弱っちいままなんだよ!!)
あの時の台詞をもう1度言われる
記憶が蘇る、僕もあの時の台詞を言って最後の1歩を踏み出した
僕だってやれる時はやるんだから
(やっぱり綺麗だね)
(そりゃそうでしょ!私の2つ目の秘密の場所なんだから)
(前のところはパパとかママに、さいしょ連れて行ってもらったんだけど、ここはパパもママも知らないんだよ)
やっぱり最後の美海ちゃんの場所はここだった
(じゃあ、ほんとに僕と美海ちゃんだけの秘密の場所だ)
(そうね、海から見る花火も綺麗でしょ)
(うん、本当に綺麗、ねえ、来年もその次もずっと一緒に見てもいい?)
(もちろん、今度こそ約束よ)
(約束だね)
(そうよ、約束、破ったら今度こそ承知しないんだから)
夏祭り @amane404
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