力を求めること
「質問、なんすけど……イリア以外の神獣ってどうなってるんすか? もし同じように管理されてて目覚めて同じ状態なのかなーって」
エタリラ各地には神獣の逸話があり、それらはイリアとはまた違うのはシェダ達も分かっていること。
彼の質問にデボラは本の頁を更にめくり、視線が開かれた頁へと集まる。
二頁に渡り描かれてるのは中央に何かを持って掲げる人物と、その周囲を囲う五体の魔物の姿だ。
鳥、獣、魔人、蛇、魚、そして見慣れぬ文字で何かが書かれているが、解読できず代わりにデボラが絵についての説明を始める。
「これはかつて神獣達が収められていた石碑に画かれていたものを写したものです。古代文字はかなり古いものらしく翻訳はできていませんが……」
デボラがそう話した時、俯き気味のエルクリッドがその頁を見つめ小さく呟く。
「声を聴く者、自らの力を天と地に分け与え、その化身たる五つの魔物は世界を見守り恵みと災いの調停者となる」
一瞬の静寂の後、エルクリッド自身もハッと我に返ったのか自分が何を言ってるのかと思って苦笑し、だがそれが彼女が無意識に古代文字を読んだ事の証明へと繋がる。
「エルクさん、読めるんですか?」
「え、あ、うーん……文字はわからないけど伝わってくるーっていうか、よくわからないや」
ノヴァに戸惑いながら答えるエルクリッドも感覚的にそれがわかってしまうことが不思議で仕方なく、それに関してデボラが優しく質問を投げかける。
「エルクリッドさん、でしたね。失礼ですがご両親は……」
「あたし、親無しなんです。だからどんな親か知らなくて……」
「大変失礼な質問をしてしまいましたね、申し訳ありません」
いえ、とエルクリッドもデボラの真摯な姿勢に穏やかに答えつつ、改めて本の絵を見つめながら魔物とは神獣の事なのだろうと推測をする。
鳥が
(五枚のカード……伝説の、カード、か……)
ーー
その日はそのままノヴァの家に泊まることとなり、温かな食事を終え用意された客室にてエルクリッド達は身体を休める。柔らかなベッドに心地よい香の匂い、不自由のない設備もあってこのままずっといたいと思えてしまう。
だがエルクリッドはベッドに寝そべりながら天井を見つめ寝付けず、月明かり射し込む薄暗い中で思案し続けていた。
(あたしもいつか、伝説のカードを……神獣を使う時が来るのかな……その時にあたしは強くなっているかな……?)
リスナーが扱う人工カードにはリスナーの実力を感知し、使用可能かを見極める術が施されている。伝説のカードも同じようにそうしたものがあるというのは想像がつき、また、使えたとしても制御できねば災いをもたらすものとなる。
ノヴァの目的に近づけば巡り合うことになり、その為にも扱えるようになる事は必要と言える。元々強くなる事を望むエルクリッドとしても、道が重なると言えた。
でもだからこそ、不安も大きい。
と、エルクリッドが上体を起こすと隣のベッドで横になっているリオの視線に気がつき、顔を向け暗闇に微笑む彼女もまた静かに身体を起こす。
「眠れないのですか?」
「うん……伝説のカードのこと色々考えちゃって……あたしに使える日が来るのかなとか、いつか手にするのかなとか……あたしの目的の為に、使えるようにって思ったり、とか」
言葉に出すにつれて声が小さく、顔も俯き気味になっていくエルクリッドは自分の迷いに気づき、だが耳を傾けるリオは目をそらさず足を揃えて座りしっかり聞き届けていた。
少しの沈黙の後にエルクリッドは机に置いていた自分のカード入れを手に取り、両手で握り締めながら見つめ言葉をこぼす。
「あたしの目的の先に、何があるのかな」
暗闇の中に静寂が深まる。エルクリッドは沈黙の後に口を開きかけたが、それよりも先にリオが諭すように語り始める。
「何かを始めればいつかは終わり、終わりを経てまた新しい始まりを見つけ人は歩き続けて思いを繋ぐ……今は今できる事を、目指すものを、心がしたいと思う事に従えばいいのです。その繰り返しが、人が人として生きる事だと」
「生きる事……」
「生きてれば多くの事があります。愛する者と結ばれる事、大切な場所を失う事……認めたくない事実に未だ迷う事も……それでも歩みは止めてはいけない、迷っていても泣いていても、助けられる命がある事は忘れてはいけないと、私は学びました」
リオも自分のカード入れを手に取りカードを一枚引き抜き、暗闇の中で微かに見える絵柄を見つめながら穏やかに話し、エルクリッドにはその姿が麗しくも寂しげに映った。
視線を感じたのか失礼しましたとカードをしまいながらリオが微笑み、小さく咳払いをしてエルクリッドと目を合わせる。
「答えが出なくて不安とは思いますが、それに囚われすぎないように気をつけないといけませんね。あなたは笑顔でいる方が似合いますから」
「そう……ですね。うん、そうですね!」
少し大きな声で返してしまったエルクリッドはすぐに両手で口を抑え、それにはクスクスとリオも思わず笑ってしまった。
見えない道を歩く不安は皆ある、それでも進む事はエルクリッドはわかっている。今までもそうだったから。
「リオさんありがとう、あたし寝る!」
勢いよく掛布にくるまり寝転がるエルクリッドは次の瞬間にはすーすー寝息を立て、あまりの変り身の早さにはリオも少し驚きつつも安堵の笑みを浮かべた。
(まだまだ多感な時期、か……おやすみなさい、エルクリッド)
静かにそう思いながらリオもベッドに身体を横に眠りにつき、月明かり差し込む部屋は静寂に包まれる。
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