証と予感

 崩壊するゴーレムの残骸が土煙を巻き上げ闘技場を包み、やがて風が吹いて晴れた時にエルクリッドはふーっと息を吐いてぐらりとよろめく。

 と、柔らかなものが支えたので足に力を入れ、それが尻尾を振って何かを期待する目を向けるダインとわかると笑みを浮かべ、ダインの頭をわしゃわしゃと撫で始めた。


「よく頑張ったねダイン。よしよ〜し、いい子いい子〜」


「ばうっ!」


 尻尾をさらに激しく振るダインはもっともっととねだるように擦り寄り、エルクリッドも応えるようにさらに撫でてやってからカードへと戻す。


 そして深呼吸をしながらカード入れへと収めると、膝をついているニアリットの方へとゆっくり進み恐る恐る声をかけた。


「えと……だ、大丈夫です、か?」


「案ずるな、だが久方ぶりにしてやられたわ……我の試練を受け攻略したのは……熒惑けいこくのリスナー以来、か」


 エルクリッドに答えながらニアリットはその存在の名を口にし、一気にエルクリッドの目つきが鋭く変わる。


 いつか倒さねばならない存在熒惑けいこくのリスナーことバエルの事をエルクリッドは訊ねかけたが、胸の前で手を強く握りつつ息を吐いて気を鎮め、察したニアリットもそれには触れずに試練についての話を伝えた。


「認めようお主の力を、十二星召ニアリットの名においてな」


「あ、ありがとうございますっ!」


 一転し顔を上げ両手足を揃えて頭を下げるエルクリッドの声はよく通り、年相応の明るさに満ちている。

 そんなエルクリッドに対してニアリットは袖の下からカードを一枚取り出し、すっと差し出し彼女に取らせた。


「このカードは……」


「我の試練を達成した者に配布するカードだ。弟子達が授けるのはナーム国の職人達が作りし最高品質の武具をカード化したものなどだが……このニアリットのものは賢者リムゾンと共に作ったスペルだ」


 ニアリットから受け取ったのは光を受けると虹色に輝く枠のカード。エルクリッドも以前世話になった賢者リムゾンの思いが込められているからか、描かれている翼持つ聖者が彼女を思い起こさせる。


「そのカードの名はリープという。使用回数や寿命に制限はないが、我が認めた者にしか使えん」


「えと……どういうカードなんですか?」


「思い描いた場所への転移を可能とする。発動すればお主とお主が望む者を離れた場所へと移動させるが、赴いた事がない場所への転移は不可能」


 使用回数も寿命もない上に効果も優れたカードとわかり、エルクリッドの表情が一瞬険しくなりかける。

 しかしそれが力を認められた証でもあるのは間違いなく、今まで一度も表情を変えないニアリットも何処か笑っている、気がした。


「ありがとうございます、大切に使います!」


「よろしい、では試練は以上だ」


「はい、ありがとうございますニアリット様」



ーー


 エルクリッドがややふらつきながら闘技場から出て行ったのを見届けてから、ニアリットは彼女の戦いぶりなどを振り返る。


 アセスとの強い繋がり、支え合って戦うそれは優れたリスナーの素質そのもの。まだまだ伸び代も感じられ、これからどのような成長を遂げるのかは可能性が多い。


(だが、あれは……)


 闘技場の中心にて錫杖を鳴らし思い返すのは、戦いの最中で見たエルクリッドのある姿だ。


 集中力を極限まで高めたからか自分が受けた傷など全く意に介さず、深く広く思考を巡らせながらも状況を見つめていた。その姿は鬼気迫るものがあり、虎視眈々と獲物を狙う獣の如く。


 そういう人間が存在しないわけではない。それをしたのがまだうら若き乙女であるという事だ。

 大きな何かを背負っているとはいえ、彼女があれ程の集中力を見せるとは想像できない。いや、持ってるはずがないと。


(クロスは知っているのか? あれではまるで……)


 心当たりがないわけではないが、それ故に疑問も多く残る。口元に手をあてながらニアリットは深く考え込み、エルクリッドの未来に何かを予感していた。



NEXT……

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