やり取り
リスナーとアセスの関係性はそれぞれだ。利害の一致、相棒、相思相愛、色彩豊かな事情が織り成す繋がりは可能性を広げ新たな境地を目指す。
彼もまたその一人。倒れ伏しドロンと煙のように消えた魔物が残す赤の色紙を拾い上げ、深くため息をつくのはシェダ・レンベルト、エルクリッドの旅の仲間だ。
「また赤かよ、ったくこれじゃキリがねーな」
頭を軽く掻きながら拾った色紙を一度は手放して風に流すが、ぱしっと素早く傍らに立つ軽鎧の戦士が掴み取ってシェダの手の中へやや強引に押し込む。
「単純に
「って事はいずれリスナーとやり合うってことか……カードもあまり使いたくはねぇけど」
色紙のしわを伸ばしながらシェダは自分のアセス・ディオンの分析に答えつつ、これからどう行動するかを考え始めた。
ディオンの言うように
その上で待ち受ける第二の試練もあるとなれば難易度は上がり、その際の相手が十二星召ニアリットであればさらに高くなる。
先々を考えれば損耗は避けたいが、そう楽に行かないのも確かだ。魔力に関しては場内に点在する休憩所にて回復できるものの、カードの方は補充ができないのも大きい。
どうすべきかをシェダは考えていると、おーいとよく通る声で少し離れた所から呼びかけられてその方へと振り返る。
逆光で影しかわからなかったが、手を大きく振る素振りと聞き慣れた声からそれがエルクリッドだとわかった。
「よっ、そっちは順調……でもなさそうだな」
駆けつけたエルクリッドと顔を合わせてから足下へ視線を送り、そして再び顔を合わせシェダは目を細め、少しボロボロのエルクリッドを見てため息をつく。
「お前……ずいぶん戦ったみたいだな」
「そりゃあ紙集めしないといけないからね。でもぜんっぜん揃わなくてさー」
疲労の色を全く見せないエルクリッドではあるが、流す汗や微かに震える身体から満身創痍であるのはシェダも、彼の後ろに立つディオンもすぐに察することができた。
それでも快活に、普段と変わらぬ笑顔は眩しく可憐。同時に痛々しくも思えたシェダはたすきがけしている自分のカード入れを開け、数枚のカードを何も言わずにエルクリッドの前に差し出す。
「え、あ、だ、大丈夫だよカードは……」
「いいからとっとけっての。無理してんのがバレバレだ」
苦笑い気味にエルクリッドは誤魔化そうとすれど、流石に無理と思ったのかシェダからカードを受け取り自身のカード入れへと収納する。
少し肩の力を抜くエルクリッドは代わりと思って上着の裏から色紙を取り出し、その中で特に多い緑と黄色の紙をシェダへ見せた。
「あたしの方は緑と黄色ばっか貯まってる、あんたは?」
応えるようにシェダも赤の紙を出して見せ、二人の間に風が吹き抜ける。
互いに相手を捉える眼差しに闘志が宿り魔力が滾り、一触即発の隣接態勢へと双方入った。
が、ほぼ同時に空いている手を相手の方へ伸ばして色紙を受け取り、そのまま隣接態勢を解いて目からも闘志が静かに消える。
「戦っても良いことないもんね。ありがと」
「知ってる奴同士だと助かるぜ」
共に旅する仲間として実力は知っている。どちらが勝っても満身創痍になるだけ、損しかない結果しか残らない。
もちろん、初めての戦いで引き分けた事から今度は勝敗をつけたい、という思いが互いにあるのも事実なのだが。
「えーとこれであたしは……うん、十枚ずつ揃った」
「俺もだな」
第二の試練の為の紙集めが終わった事に安堵しつつ、二人は一度顔を合わせ互いに横を通り抜ける。
余計な言葉はない。目的を果たしたなら一喜一憂せず次に進む、全てを終えてから喜べとは共通の師から学んだ事だ。
(シェダ、頑張りなさいよ)
(無理すんなよエルクリッド)
心では仲間の無事を思いつつ自分が挑むものへと進み行く。再び合う時は目的を果たし終えた時、共に乗り越えたと胸を張って言える為に。
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