長男に生まれて何が悪い

ぷろっ⑨

第1話 私の嫌な夏

私が初めて死のうと考えたのは小6の夏の頃だった。

中学受験に挑んだ夏休みのこと。


自分よりできる姉と、何をやっても進まなかった自分。

塾の夏期講習が終わりに近づき、自分のできなさを実感した。


でも、それだけで死んでやろうかと思うほど

追い詰められてはいなかった。


自分の容量の悪さのせいで、自分が父から姉よりも

ひどい態度をされた時だった。


家の床で寝転んでいるだけで

1回蹴られたこともあった。

自分ができないのをチクチク言われることもあった。


それは耐えられた。


でも、ある日のこと。

母方の祖母の家で家族全員で夕飯を食べていたときのこと。

私はその日の塾で、珍しく漢字テストで1番になった。


うきうきで、いつも手分けしてやる夕飯の手伝いを、

いつもより張り切ってやった。

まだ小学生だった自分は、いつこの話を切り出そうかと

そわそわしていたとき。


私だけ、父から思ってもいない言葉を吐かれた。

何を言われたかは覚えていない。

でも、そのあと泣きながら祖母の家の一室に

逃げ込んだことは覚えている。


死ねだの、できないだの、手伝いをしないだの

言われたのだろう。


私は悔しかった。


私が間の悪い人間だということは知っていた。

父と母が出かけている間に勉強をして、帰ってきたころに

丁度休憩していたせいで、真面目にやれだの言われたものだ。


でも、自分が成長したと喜びを感じられたその日に、

親からけなされるなんて思いもしなかった。


その日から、私は自分ができないことに

死を感じ始めた。


頑張っても、点数が下がっていった。


苦しみを分かちあえる友人もおらず、

塾に通う日々に、嫌気がさし始めていた。


そんな日々が続く中、私はネットで

何を思ったのか、死ぬ方法を検索していた。


そのときに目に入ったのが、手首を切って

水につけるというものだった。


1階の家族共用の文房具入れから、

カッターナイフを持ち出し、部屋の中に持ちこんでいた。


いざ切ろうとしたとき、震えが止まりまらなかった。

思い切って切ろうとしても、その時の痛みを想像してしまって

結局、2時間部屋にこもって、死を安易なものと想像しただけで終わった。


その夜は、自分が命を一瞬でも軽く見てしまった

ことに、吐きそうになった。

私は、死ぬということを甘く見すぎていた

あの日の夜を、忘れる日はない。


私は、中学受験をするまでにどんな

間違いを犯してきたのだろうか。



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