#6 現在(雪12歳・雨11歳)+まとめ
雨とのお別れの次のカットでは、大きな入道雲が映し出されます。この入道雲は、花が韮崎のおじいちゃんから畑仕事を教わっていた時とシーンと重なります。花が子離れを経験して、成長したという証でしょう。
雪は中学進学と同時に寮に入り、家を出ます。富山に越してきた直後、市役所の男性が「中学上がるとバスと電車で二時間半」と話していましたから、寮に入るのは自然な流れです。
雪が送ってきた手紙には写真がいくつか入っており、さりげなく草平らしき人の影もあります。友達二人と映る雪からちょっと遠いところにいますから、雪と草平が恋人同士になってベタベタしている様子はなさそうです。最後に、花は雨の遠吠えを聞いた後、おおかみおとこと笑って物語は幕を閉じます。ちなみに、おおかみの遠吠えは「俺はここにいるぞ」という意味です。
さて、「おおかみこどもの雨と雪」ですが、完璧な映画かと言われるとそうではありません。「大学生なのに子供作るなよ」とか、「雨は失踪したと思われて大騒ぎになるぞ」などといった突っ込みどころは、突っ込んでいくとキリがありません。十二歳の雪の目線から見た物語だから、という理由である程度説明できるものの、あらゆる観客が違和感を持たずにスッと物語に没入できる配慮が十分足りているかと問われると、不十分であることを否定できません。
しかし、この映画を子と親の成長を描いた物語としてとらえ、それが十分に描かれているか、という論点で考えたらどうでしょう。自分がどう生きたらよいのか分からない幼少期から始まり、やがて自分の道を見つけていく子供たち。そして、やがて子離れを経験する母親。そんな子供たちと母親の生きざまが、この映画ではみずみずしく描かれています。この物語は「おとぎ話みたいだって、笑われるかもしれません」という語りから始まりますが、実際には全ての子と親に当てはまる、普遍的な子育ての風景を描いた作品なのです。
特に、雪のパートと雨のパートの使い分けは秀逸です。雪のパートでは、成長する過程で子供自身が抱える苦悩が細やかに描写され、雨のパートでは、親の知らない場所でみるみる成長してゆく子のたくましさと、親の手から子が離れる寂しさが表現されています。子の成長に関する多面性を、雪と雨という対なる存在を使い分けることで描き切っているのです。さらに、巧みな時間演出によって子の成長に付いていけない親の気持ちを観客も感じられるよう工夫したり、エンディングでは十二年間の子育てを観客が追体験できるようになっているなど、観客がさも雨と雪を育てたかのように感じてしまう表現にすら成功しています。他にも、花瓶や入道雲、鏡などのアイテムを巧みに使う演出、自分の道を選んだ雨と雪に対するおおかみおとことシンリンオオカミというキャラクター、序盤に入れ込まれたささやかな伏線...。映画に盛り込まれた仕掛けの緻密さと美しさには、息を吞んでしまいます。
細田監督はこの「おおかみこどもの雨と雪」で、子育てにまつわる沢山の風景や心情を美しい映像美で描写し、老若男女誰もが楽しめる形で描き切りました。その細田監督の手腕は、もっと高く評価されるべきではないでしょうか。
【参考文献】
https://cinema.ne.jp/article/detail/39060#toc2
https://mralansmithee.blog.fc2.com/blog-entry-601.html
https://note.com/mineko_fuji/n/nf8c339aeebd0
https://filmaga.filmarks.com/articles/116465/3/
https://blog.monogatarukame.net/entry/Wolf_Children
https://nogreenplace.hateblo.jp/entry/2013/12/24/001041#f-301a3f37
https://rootport.hateblo.jp/entry/2013/12/20/205142
https://plaza.rakuten.co.jp/yhanna/diary/201606130000/
https://trapds.hatenablog.com/entry/20131222/1387688948
https://izuremo.hatenablog.com/entry/2013/12/22/005732
https://kamiyakenkyujo.hatenablog.com/entry/20120817/1345207423
https://nodogurokun.hatenablog.com/entry/2015/07/16/233355
おおかみこどもの雨と雪 徹底解説 @weirdo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます