第36話 入籍

9月10日、今日はあかねの誕生日である。

春樹たちは玲香の誕生日に籍を入れていたので、

それにあやかって、あかねも誕生日に籍を入れる事にした。

あかねは、昨夜、午前1時に帰宅して寝付いたのは

午前3時近くだったにもかかわらず、朝、8時には起きていた。

「おはよう、まだ、早いだろう、眠ったんか」


「だって、眠れないの、どうしよう、何を着て行けばいいかしら」


「別に、春日井市役所へ行くのに、ふだん着でいいんじゃないのか」


「良くないわよ、一生に一度の事なのよ、何を着ていこうかしら」


「いつものワンピースじゃ、ダメなのか!似合っているし、いいけどなぁ」


「やっぱり、新しく服を新調してもいいかしら!

ねぇ、修平さん、市役所へ行く前にアルコットって

婦人服店に寄ってくれる」


「いいよ、市役所は5時までやっているから、

それまでに婚姻届を出せばいい」


「徳川園は午後6時に予約をしてあるから、

春樹も玲香も楽しみにしているからな

智ちゃんと香奈ちゃんは場所、分かっているのかな、

そうだ、智ちゃんたちに2人でタクシーで来いって言っといてくれ」


「そうだわね、あとで連絡をしておくわ、

徳川園って日本庭園の徳川園の事?」


「その徳川園だ、行った事がないかな」


「ないわよ、その中にあるレストランなの?

さすがタクシー運転手、素晴らしい処を知ってるわ

そこって、日本庭園も見る事ができるのかしら」


「四季の花が植えてあるから、今だと曼珠沙華って別名、彼岸花や何だろう

ホトトギスかな、鳥のホトトギスじゃ無くて、

花にもホトトギスってあるんだ。

花言葉は永遠にあなたのものって云うから、

今日の日には、うってつけだね」


「修平さん、よくそんな事まで知っているわね、調べてくれたの」


「いや、私はカメラが好きだから、ここにも何度か来ているし、

色々な所へ行って鳥や花の写真を撮ってきたから、

家のPCにもホトトギスの写真はたくさんあるはずだよ

徳川園は、紅葉が素晴らしいのだが、まだ、早いな~

そうそう、取って置きの話なんだが、

実は徳川美術館の館長は

何でも徳川の血を引く子孫『徳川義崇』って人らしいぞ」


「家康の子孫って、現実にいるんだ、すごいね!

家康様に似ているのかしら」


「そうだな! 一度くらい顔を拝みたいよな!

北大路欣也に似てるかもしれんぞ」


「修平さん 何、バカな事を言っているのよ!

役所広司に決まってるじゃない!」


そこにお父さんがやってきた。

「あかね、腹が減ったが昼飯はまだか?」


あかねたちは早めに昼食を済ますと

お父さんにスーツを着るように頼んだ。

「お父さん、私たち、結婚するの!

 ねぇ、お父さん、私の誕生日、いつか覚えてる?」


「あかねの誕生日は6月29日だ」


「それはお母さんでしょう」


「そう、だったか!あかねに誕生日ってあったかな」


「もう、お父さん、今日でしょ、今日!

だから、今日、修平さんと婚姻届を出しに春日井市役所に行くの」


「えぇっ、婚姻届って!」

お父さんは急の事で驚いているようだ。


あかねはそんなお父さんをかまう事なく

現役時に来ていたグレーの背広を出してきて着替えさせた。

少し肩回りがだぶついている。あかねは老いた父を感じた。


3人は春日井市役所に向かう。

車の中でお父さんが問う

「結婚って、そんな大事な事、なんでもっと早く言わんのか」


「ごめんなさい、お父さん 本当はね!

修平さんは『結婚はまだ、早い』って言っていたんだけど、

私が強引に結婚してってせがんだの・・・・・。

だって、そうしないと、お父さんを見てもらえないし・・・

この前みたいにお父さんが徘徊をしても、

私じゃ、どうにもならないもの・・・・・

お父さん あの時、修平さんがいなかったら、

川で溺れて死んでいたかもしれないわ」


「わしは徘徊などしておらん」


「じゃ、あの時、どこにいたか覚えているの」


「あの時って・・・・どの時じゃ」


「ほら、思い出せないんでしょう、お父さんも年なのよ、

少しボケが始まってきているの、だから、修平さんが必要なの、

修平さんと結婚してもいいでしょう お父さん」


あかねはお父さんに甘えるようにしてせがんだ


「そうか、じゃ、お祝いをしなきゃな、どこかでご飯でも食べに行くか」


「だから 今日はね、私たちの披露宴をするの、お父さんも一緒よ、

春樹と玲香は知っているわよね、あと、お店の子が二人来るけれど、

あんまり、ああだ、こうだ、云わないでね、

私たちの披露宴なんだから、祝ってね」


「わしはそんなに物分りの悪い方じゃ無いぞ、

分かっているよ 何処でするんだ、

キャッスルホテルか、観光ホテルか」


「キャッスルホテルは今、建て替え中~です。

前よりもっと大きいホテルができそう、披露宴は徳川園でするのよ」


「徳川園か、あそこは、お母さんの弟、孝君が結婚式を挙げた所だ、

そうか、あそこはいいな」


「孝おじさんは徳川園で結婚式を挙げたの?

今は、東京に住んでいるのかしら

知らなかったわ、偶然というか、

名古屋はせまいと云うか、なんだか、不思議」


「だから、おまえが幼い時、結婚式に出ているはずだから

おまえも徳川園には来てると思うがな、

アルバムを調べれば写真があるはずだ」


「そうなのね、お母さんとお父さんと私は徳川園に行った事があるのね、

なんだか、本当に不思議、お母さんも祝ってくれるかも、

なんか、嬉しくなってきちゃった」


あかねはアパレルショップ〔アルコット〕で

淡いグリーン系のワンピースドレスを買うと

家から持ってきた純金のペンダントをつけて見せた。

「ドレスのグリーンに金はひときわ目立つな、いいんじゃないのか」

修平が言うと

「馬子にも衣装じゃなく、ばばぁにも衣裳か!」

お父さんが笑いながら憎まれ口をたたいた。

「もう、お父さんたら・・・・・」

アパレルショップ〔アルコット〕の東出口から出ようとすると

紳士服も飾られている。

「修平さん あれ、どうよ! 

今、着ているブレザーって、暑いんじゃない、これにしなさいよ 

このジャケット、エアクールだって涼しそう」

修平はあかねの意のままに

シルバーグレーチェックのジャケットに着替えた。

それを見てお父さんも欲しがっている。

あかねはお父さんにも色違いの薄茶色のジャケットを買った。

ネクタイは青色に富士山の刺繍が入っている

お父さんはそのネクタイがすごく気に入ったようだ。

修平には、〔となりのトトロ〕がワンポイントで入っている

ネクタイをあかねが選んだ。


そのあと、3人は市役所へ行って婚姻届けを出して来た。


夕方、3人は徳川園に着くと、もう、みんなは来ていた。

門構えはまるで大名屋敷のようだ。

徳川園の外周は木造の塀で区切られている

一辺、約200mの正方形なので総面積4.5ヘクタールはありそうだ。


あかねたちは個室に案内されると、

智ちゃんと香奈ちゃんがおめでとうございますと言って花束を渡す。

玲香はティファニーのペアグラスをあかねに手渡した。

「ママ、きれい!そのドレス、買って来たんだ!よく似合っているわ!

おじさんもチェック柄が似合っているね」

玲香がお父さんに寄って行くと、

「どうだ、このネクタイ いいだろう」

お父さんが玲香にネクタイの下を持ち上げて見せた。

「富士山の刺繍、こんなネクタイがあるんだ すご~い」


「すごいか!」


「うん、おじさん かっこいいよ」

お父さんは上機嫌だ!


「おめでとうございます、ママ、やっとだね、良かったね」春樹が祝う


「おめでとうございます、私たちも呼んで頂いて光栄です」

香奈子も祝う


豪華な料理が次から次へと運ばれてくる

フランス料理にワインがいいと言って

修平は「メルローワイン」を頼んだ。

口当たりの良い飲みやすい赤ワインらしい

料理は味わった事も無いようなキャビアや

クミンやフェンネルを使った鴨料理

黒トリュフなど

香奈ちゃんも智ちゃんも一点一点、感動をしている


「じゃぁ、あかね、お父さんに祝いの一言をお願いしたらどうだ」

修平があかねに言った。

「そうね、お父さん お願い・・・・・」


「ええぇえ、わしか、では、ショウヘイ君、あかね、結婚 おめでとう」

お父さんが立ち上がると、少し戸惑いながら言った。

お父さんは、急な事で、言いたい事が何も言えなかった。


「修平さんがまた、ショウヘイさんになっちゃったね」


「この際、修平をやめて昇平になるか」

修平が言うとみんな大笑いだ。

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