第6話 何で先言うんよ

2024年10月29日


「29日にな、兄ちゃん家来るから帰ってき」


父親からLINEが来た。今までSMSだったのに。


母親は無事退院し、自宅で療養中である。


最寄り駅に着きいつも通りの待ち合わせ場所に見慣れた車。


父親が運転席から軽く手を振る。


「母さんな、薬の影響で髪の毛が―」


10分ぐらいの帰り道の途中で父親が話し出す。


ドラマとかで見たことある。


抗がん剤を投与すると副作用で髪の毛が抜けるとかなんとか。


「あんまり頭のこと言わんといたってな」


「言わんよ、さすがに」


家に帰るとドアを開ける音で寝ていた母親が目を覚ました。


「ちょっと待って~」


母親の言葉はギリギリ間に合わず―


「あぁ~見られたぁ~」


と言いつつあまり隠すつもりのない仕草。


「さっき父ちゃんから聞いた、ちゅんちゅるてんやん」


頭のことは言わないと言ったが母親がそんな感じだ。つい出てしまった。


「えぇ~?!もぅ~なんで先言うんよ~!」


いや、サプライズにしてはなかなか…


いや、母親の性格ならやるだろうな…


陽気で綺麗な坊主頭の尼さんになった母親がそこにいた。

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