第2話 金剛力士コンビ a.k.a.聖と律
「私、葛城聖言いますねん。高校一年生。今日は創立記念日で学校休みやから、私も京都に遊びに来てんねん。あ、高校は奈良ね」
え?今、一緒に回るって言った?この美人が私と一緒に?万年三軍の私と?
窓香の頭の中がぐるぐる回っている。思考が追いついていかない。これは…窓香の人生14年と6ヶ月の経験では予測できない未知の体験が待ち構えている予感。
「もう少ししたら友だち来るから、そうしたら3人で回りましょ。私も奈良住みやから京都のことよう知らんし。友だちは京都民やからよう知ってる。あの子に案内させましょ」そう言って、葛城聖さんはにっこり笑った。
マドカがまだ何も答えないうちに一緒に回ることになっていた。でも、不思議なことに嫌な感じは全くなかった。彼女の自己紹介で彼女が1歳上の高校1年生であることが分かったし、彼女の穏やかな話し方は窓香のクラスメートとは明らかに異なっていた。
「ごめーん!かんにん!待った?」ものの1分もしないうちに、またもや窓香の背後から声がした。そこには葛城聖さんよりさらに大柄な人物が立っていた。顎の辺りで切りそろえたボブカット。切れ長の目に形の良い鼻。そして引き締まった口元。こちらも葛城聖さんとは別のタイプの美人だ。小麦色に輝く長い手足。明らかに体育会系の体型だ。サッカー部のゴールキーパーでもしているんだろうか。
「りっちゃん、おはようさん。今日は新メンバー登場やで」葛城聖さんはいたずらっぽく微笑みながら、その人物に話しかけた。りっちゃんと呼ばれた人物は、こちらに目を向けるとニッと笑って「おはようさん」と挨拶をした。美人というより、なんというか…カッコいい。窓香が気づかぬうちに汗をかいていたのは、初夏の日差しが思いの外暑かったせいだけではない。
「りっちゃん。九条律。私の同級生なんよ。京都から奈良まで通ってはんねん」くじょうです〜よろしゅう〜と九条律さんは、舞妓さんのような仕草でおどけてみせた。
「で、お名前教えてくれる?」葛城聖さんは、少し首を傾げながら、窓香に声をかけてきた。え?あ!やばい、私、名乗るの忘れてた。というか、こういう展開になるなんて。1時間前の私には想像すらできなかったのだ。誰がこうなることを予想できたであろう。京都あなどれず。
「江戸川…江戸川窓香です。マドカって呼んでください」
「そっか。ほな、私のことはりっちゃんって呼んでな。ほんで、こっちはせいちゃん、てことで」
「あ、はい」
りっちゃん、仕切り魔なのかな。てきぱき話を進めていく。りっちゃんが来てからは、聖ちゃんもニコニコしながら、りっちゃんに任せてる。二人とも同年代とは思えないほど落ち着いている。もしかして、高校生になったら、私も落ち着くのかな。こんな風に小さなことで傷ついたりしなくなるのかな…窓香はぼんやり考えた。
「あの、りっちゃんって何かスポーツやってるんですか」窓香は思い切って聞いてみる。
「あ、私?うん、私でかいよね。175センチあるし。子どもの頃から剣道やっててめ、気づいたらこの背丈なんよ」
で、デカい。てことは、少し低い聖ちゃんも170センチはあるってことだよね。このコンビでかい…。この二人が並んだら、まるで金剛力士像みたいだよね、そして私はこの美丈夫(?)な二人と京都巡りをするんだ…うわぁ…窓香は改めて二人を見上げる。窓香が考えていることが分かったのか、律と聖は声を出して笑った。
「でかくてすまんねえ」
「いえいえ」
「背が高いとね、空気が薄くてたまらんわ。マドカちゃんくらいがちょうどええねん。」じ、冗談だよね?
「うんうん、マドカちゃん、可愛いわ。都会っ子ゆう感じするし」聖ちゃんがじっと見つめてくる。なんだろう、この多幸感あふれる会話は…というか、私、褒められている?こんな風に同年代に持ち上げられるのって初めての経験だ。褒められるって、こんなに気持ちの良いことだったんだ。
「マドカちゃんね、東京から修学旅行で来たんやて。で、今日が自由行動で一人で京都回らはるんやて。せやから声かけさせてもろてん」と聖さんが続けた。
「ふーん…」りっちゃんは少し眉をひそめる素振りをして、ちょっと言葉を飲んだ。一瞬で状況を飲み込んだようだ。もしかしてこの二人、神様?私の窮状を一発で理解してくれた?
「よっしゃ、マドカちゃん、どこ回りましょ?どこでも連れてくで」
「私もよう知らん場所多いから楽しみやわ」
窓香はおずおずとiPadを指し示す。そこに表示された旅行プランのPDFデータを見て、二人がおおっ!と声を上げる。
「マドカちゃん、すごいやん。めっちゃ調べて来てはるやん」
「りっちゃんが行ったことない場所もあるんちゃう? へーえ…羅生門跡とか気にしたこともないわ。でも確かに昔は羅生門って大事な門やったもんね」窓香のPDFをじっと読みながら、聖ちゃんがつぶやく。「一条戻橋とか入ってるやん」隣から覗き込んだりっちゃんが笑う。そして二人揃って窓香に語りかける。
「マドカちゃん、オタクやな」
「マドカちゃん、スゴいわ」
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