8月24日
「お邪魔します。……久しぶりに入った気がする」
「あ〜確かに、1週間近く来てねぇよな」
途中風鈴を鳴らしながら、2人は渚の部屋へ行く。
「家来てもやることねぇけどな〜」
「え、あるよね?」
「は?」
束沙は持っていたリュックから、ワークやプリントなどを取り出す。
「宿題終わったじゃねぇか」
「うん、だから、確認するよ」
渚は信じられないものを見たかのような顔をする。
「束沙って、なんか、ホント、真面目だよな……」
「渚も一緒にやるよね?」
「……まぁ、そうだな」
渚は部屋のあちらこちらに置かれた課題を集めて見ていく。
「……あ」
「え、どうかした?」
渚の視線の先を覗き込むと、埋まってはいるがモノクロなままのプリントがある。
「これって、答え合わせしなきゃいけなかったよな……?」
「そうだね」
「マジか〜! ……待てよ、もしかして他にもあるのか……?」
渚のがみるみる青ざめていく。束沙は眉を少し下げて微笑む。
「一つずつ確認しようか」
数時間後、渚は天井を見上げてため息を吐く。
「丸つけしてねぇやつが、あんなにあるとは思わねぇよ……何してたんだよ、俺……」
「まぁまぁ、今日気づいて良かったね」
「いや〜、マジで感謝だわ。……そういや」
渚はプリントを指差して言う。
「この丸つけしてなかったやつ終わらせたときさ、俺ら水鉄砲したよな」
「あ〜……そのときだったっけ」
「束沙のお願い、聞いてねぇんだけど」
「そうだね……。今年の夏はいろいろしたな〜」
「ロコツに話逸らされたっ!?」
「階段の風鈴とか、渚の特技が知れて楽しかったな」
「雨ん中フツーに家寄る束沙は意味わからんかったな。案の定風邪引いてっし」
「渚は本当に風邪引かなかったね」
「俺バカだから!」
「だからそれは迷信だって」
束沙は微笑む。
「……他人のことをよく見てて、細かいことにすぐ気がついて、無自覚のまま気配りができる渚は、本当にすごいよ」
「同じこと、束沙にそっくりそのまま返すわ」
束沙は少し首を傾げる。
「そんなことないと思うけどな……」
「束沙が気づいてないだけだろ」
「いや、ただ……」
視線をずらしていく束沙に、渚は首を傾げる。
「ただ?」
「……なんでもない。それより、僕のお願い、聞いてくれる?」
束沙は微笑む。渚は一瞬硬直し、すぐに立ち上がる。
「じゃあその前に、のど渇いたからジュース足してくるわ」
「あ、僕も下降りるよ。そろそろ帰らなきゃだし」
「はっ! もうそんな時間かよ〜……くそっ、宿題め……!」
「自業自得では?」
「そうだけどさ〜」
階段を降りる途中で渚は一瞬立ち止まり、降りるスピードを速める。
「どうしたの?」
「束沙、見て!」
渚が指を差した先には、パステルカラーの空がある。
「きれいだね」
「さっさとコップ置いて、縁側行こうぜ!」
そう言うが早いか、台所へ走ってすぐ、和室へ向かう。
「マジできれいだな〜」
「ここからもっと赤くなっていくんだよね、きっと」
「だな〜」
しばしの沈黙が流れる。
「……あ、そういや束沙のお願いってなんだったんだ?」
束沙の方を向くと視線が合う。束沙は微笑んで言う。
「渚、10……いや、5秒だけ、目を瞑っていてくれる?」
「お、おう」
目を閉じる。1。束沙が近づいて、闇がさらに濃くなる。3。少し明るくなる。4。頬に何か柔らかくてあったかいものがあたった……。
「え、……え? な、今、何、したんだ……?」
束沙の顔が離れていく。赤く見えるのは気のせいか?
「やっとできた……」
幸せそうに微笑むのは、まぁ、良いんだけど……どゆこと?
「今、待って、束沙のお願いって、キス……」
「うん。渚としたくて、本当は、口にしたかったけど」
「えっ!?」
束沙は眉を少し下げて微笑む。
「渚は、嫌でしょ?」
否定しようとしたけど、確かに急にそれは……う〜ん……。
「まぁ、そういうもんだってわかってるから、大丈夫」
顔を上げると、空を眺める束沙が視界に入る。少し赤くなった顔は、多分夕日のせいじゃねぇんだよな……。
「頬にしてる時点で嫌われても仕方ないって思ってるし」
「いや別に嫌いになってねぇけど」
驚いた顔で振り向かれ、俺はつい首を傾げる。
「だって束沙がしたかったことだろ?」
「いや、まぁそうなんだけど、好きでもない人にされるのは嫌だよね……?」
「ん〜、よくわかんねぇや。別に嫌でもなかったしな」
「え、え?」
束沙が混乱してる……。まぁでも、俺にもよくわかんねぇんだよな……。ん?
「母さん、おかえり〜」
大きめに言うと、母さんは一瞬引っ込んでからこっちに来る。
「ただいま……」
「どした? 疲れてんの?」
「いやっ、えっと、夕飯、作るわね」
あたふたとした感じで玄関に入っていく。どうしたんだ?
「じゃあ、僕は帰るよ」
束沙は立ち上がりリュックを背負い直す。
「ん、じゃあな、気をつけて帰れよ」
「うん。ありがとう」
俺はまた夕日を眺める。フツーは嫌だと思うのか……でも別にな……束沙が俺のことを、そういう意味で好きだって知ってたからかもな……。
「ちょっとさみぃな……中入ろっと」
諸々が終わって、布団に入る。だけど、なんか寝つけない……。どう考えても、帰ってきてからの母さんおかしいんだよな……妙にソワソワしてるっつーか……。
「……水でも飲も」
音を立てないように部屋を出て階段を降りようとしてビビる。なんで台所の電気ついてんだ? もう12時なるし、いつもなら2人とも部屋で寝てんじゃん。なんの話してんだろ。
「……やっぱり渚と束沙くんは付き合ってるのよ!」
え…………?
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