8月17日
「映画見に行かね?」
玄関まで出てきた渚は、すでにバッグをかけている。
「行く気満々だよね」
「おう!」
束沙の家に寄ってから、2人は映画館へ向かう。
「けど、急にどうしたの?」
「気になる映画あるんだけど、行ってなかったからさ〜。どうせなら束沙も見るかな〜って」
「ちなみにそれは何映画なの?」
「ゾンビ映画〜」
「…………そっか」
明らかに下がったトーンに、渚は一瞬後ろを向く。
「……前やったゲームほどは怖くないと思うよ、たぶん」
「……わかった」
映画館に入り、チケットとポップコーンを買って席に座る。3分の2ほどが埋まっている。
「結構人いるね」
「そだな」
膝の上にポップコーンを置いて渚はパクパクと食べていく。
「……ポップコーンって、いつ食べるのがいいのかな?」
「ん……俺はさっさと食べちゃって映画に集中するけどな。ま、食べ切れないんだけど」
「確かに、映画中だと迷惑になるもんね……」
ブザーが鳴り、会場が暗くなっていく。
「間に合わなかった」
「まぁ、好きなときに食べなよ。俺は音気にしないからさ」
「うん、そうする」
始まってすぐに思った。
怖ぇっつーか、ビビるほうだわ、これ。
ゾンビ映画ってそういうもんだって知ってっけど、ここ来るなってとこ以外でも意外とワッて飛び出てくんだな。束沙大丈夫か?
「……っ!」
……うん、マジでごめん。声出ないようにめっちゃ口抑えてたわ。小声で声をかける。
「束沙、嫌なら見なくてもいいよ」
「……目閉じても怖い」
「そっか……」
まだまだ終わらないんだよな〜……。
「あ〜、やっと終わった〜、体痛ぇ」
上演が終わり、渚は立ち上がって身体を伸ばす。束沙は俯き加減でつぶやく。
「……お腹いっぱいになった……」
「途中からポップコーン食べまくってたよな」
「声出ないようにしていたんだけど、逆にうるさかったよね、ごめん」
「いんや、気にしてないって。誘っちまったの俺だし」
2人はその場を後にする。
「怖かったけど、ストーリーも良かったよな!」
「…………うん、確かに」
「今めっちゃ考えてたけど、ほんとに大丈夫か?」
「うん、まだ心臓うるさいけど」
「……いったんどっか入るか」
近くのファストフード店に入り、渚はポテトとオレンジジュース、麦茶を頼む。
「俺の奢りだぜ!」
「え、いいの?」
「い〜のい〜の」
向かい合って座り、渚はポテトを口に運んでいく。
「……うま」
「よくそんなに食べられるね……僕はいらないや」
「うまいもんはうまいからな!」
2人の間に一瞬の沈黙が生まれる。
「あと2週間もないな、夏休み」
「そうだね」
束沙は麦茶を一口飲む。
「……ごめんね」
「急になんで謝んの?」
首を傾げる渚に微笑む。
「いや、僕のわがままに大分つきあわせちゃったなって」
「……いや、どちらかと言うと俺がしたいことに束沙を誘いまくった気がすんだけど」
「そうかな?」
束沙は眉を少し下げて微笑む。それを少しの間眺めた後、渚は思い出したように言う。
「そういや、明々後日にキャンプ行くんだけど、束沙も来るか?」
「え……いいの?」
「おう! 親はテントでまったりする気だから、俺らは魚とかとり行こうぜ!」
「何時頃に出発予定かな?」
「10時ぐらいだったはず」
「休み取れるか、あとで聞いてみるよ」
「そうしてくれ。……あと、束沙がやり残したこととかって、なんかある?」
「えっ……」
一瞬面食らった顔をしてもとの表情に戻る。
「なんでそんなこと聞くの?」
「ん〜……束沙がなんかときどき我慢してそうな顔してるし、それに」
渚はニッと笑って言う。
「この夏は今年だけだし、やりたいことやりきらないとな!」
束沙は一瞬目を丸くし、そしてつられるように微笑む。
「そうだね」
それを見た渚は小さくつぶやく。
「やっと苦しそうじゃなくなったな」
「え? 何か言った?」
「ん〜? なんも言ってねぇよ?」
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