第15話 それは禁句です

 三人は休憩を終え、アレンの着替えを待った後、再び森の中を歩き始めた。すでに周りの景色は熱帯の森に様変わりしており火山が 近づいていることを表していた。やがて森を抜けると草木が一本も 生えていない石や砂しか無い火山が現われた。火山に繋がる道には 枯れ果てた木々がそびえ立つ。

「やっと着いたな… …」

「そうね。それにしてもやっぱり暑いわね。四十℃くらいあるんじゃないの」

「サラマンダーのいる場所はもっと暑いぞ。そろそろクーラードリ ンク飲んでおけよ」

 クーラードリンクとは、気温の高い地域でも体を冷やし正常な体温を保つ飲料水である。一本で一時間は今の体温を保ってくれるが、このアイテムも貴重なアイテムであるので飲むタイミングは重要なのだ。

「持ってない……アイテム類は部下が持っていて、そのまま逸れちゃったから」

「あぁ、なるほどね。でもよくそんな状況で一人で行くって言った よな」

「何もせず一人だけ生き残っておめおめと帰るわけにはいかないわよ。無茶でも死んだ方がましよ!」

 エリーが言葉を強めて言い放つ。

「今、何て言った?」

 急に目付きの変わったアレンにエリーが驚く。

「え?」  

 アレンは突然近くにある巨大な枯れ木を拳で殴りつけ、一人で火 山に入っていく。

「な、なによ、急に怒ったりして。私が何かした?」

 エリーはアレンに向かって叫ぶがアレンはそれを無視してひたす ら前に進んでいく。エリーも訳が分からず、

「なんなのよっ」

と言 いながら前に一歩踏み出そうとするとディーネに止められる。

 ディーネからクーラードリンクを手渡された。

「あ、ありがとう。ちゃんと後でお金は払うわね」

 エリーの言葉を聞くとディーネは神妙に、

「そうね。ちゃんと生き残ってお店でアレンに払ってあげて」

 ディーネの言葉にエリーは察する。

「アレンは私が死んだ方がましって言ったのを怒ったの?」

「どうでしょうね。たたアレンは人の死に敏感だから……特に自分 が関わった人の死にはね」

「何かあったの?」

「ふふ、それも町に帰ってからにしましょうか。気になることが多いほど、死ぬ気ってなくなるでしょ」

「それもそうね。じゃあ取りあえずアレンを追いかけましょう」

「えぇ。あの人クーラードリンクをまだ飲んでないはずだか今頃汗だくですよ。せっかく着替えたのに」  

 ディーネがそういうと、二人は仲の良い姉妹のように笑い合った。

そして手渡されたドリンクを飲み干し、駆けだすように並んでアレンの後を追った。  エリー達がしばらく走ると、アレンの背中が見えてきた。アレン に追いつく前にディーネからクーラードリンクをもう一本渡される。

「これは?」

「エリーさんから渡してあげてください。仲直りしなきゃね」

ディーネは片目をつぶって、にやける。

「な、仲直りって……別に喧嘩しているわけじゃないし……一方的に向こうが… …」

「とにかくエリーさんから渡してください。頼みましたよ」

 しょうがないわね、と言いながらしぶしぶドリンクを受け取る。 アレンの背中が近づいてくると、確かに着ていた服は汗でぐっし ょりと濡れていた。そのままアレンに追いつき横に並ぶと、ペースを落として横を歩く。ちらりと横目でアレンの表情を確認するが、 明らかに不機嫌そうだ。

「ちょっと止まりなさいよ、アレン」

 アレンは何だよと言いながら立ち止まる。エリーは持っていたク ーラードリンクをアレンに差し出す。

「これあんたにあげるわ。汗ひどいわよ」

 アレンは受け取ったドリンクの瓶をじっと見る。

「あげるって……これうちの商品だろ?」

「私が買って、それをあなたに渡すんだからいいでしょ。お金はちゃんと町に戻ってから払うから。団長として何があっても踏み倒したりはしないから」

 その言葉の意味を理解するとアレンの表情も少し和らぐ。

「それ意味あるのかよ。ディーネが直接俺に渡せばよかっただろうに」

「私もそう思うわ」

 さっきまでの気まずい雰囲気は既に消えていた。

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