バカ二人、最寄りにて。

求導者

バカ二人、最寄りにて。




ジリジリ。ジリジリ。



「……んあっち〜!!」



── 2025年、7月。


身を焦がすように照り付ける陽射し。


じわじわと身体を蝕む汗。


重くなる足取り。


…燃えるような、夏。


俺たちは今日も、共に学校への道を行く。



「…うん。暑いね」


「おいおい、それ本気で言ってる?」


「うん」


「クールすぎねぇ?」


「そうかな」


「夏なのにクールて。矛盾してんぞ?」


お前が言ったんだろ…と、ツッコむ気力はない。


軽口を叩く余裕もないほどに、暑さにやられていたからだ。


普通、こうも暑いとテンションが下がるもの。


しかも、俺たちの学校は山間部に位置する。近くにバスも走っていない。


徒歩or自転車。地獄or地獄。


行き帰りだけで、ヘトヘトである。


皆このからは逃れられないが──どうも、隣のコイツだけはされるらしい。



「…無視! 相変わらずつれないのね、リクちゃんは」


…声がデカい。


なんでそんなに元気なんだ。どういう精神構造だ。


気温に比例してテンションが高くなるとでもいうのか?


「ハァ〜〜。だって、うるさいもん。裕翔」


ため息に、三行分の思いを添えて吐きだした。


「う〜ん。そっかぁ…」


「……」


微妙に落ち込んだ顔をする、裕翔。



…坂口 裕翔。田城高校1年。


同級生で、クラスメイトで……一応、親友。


ちなみに俺は、白石 リク


黒髪黒目、中肉中背。


両者共に、『特記事項なし』である。



…強いていうなら。



「そうだよなぁ。うるさいよな、俺…」


まだ言ってるのか、コイツ。


でも、流石に可哀想だから、何かしら返してやるか。


「……まあ、その」


「んお、なになに?」


「…お前は、夏でも”ホット”だよな」


「え」


数秒ほどフリーズする裕翔。


何か、変なことを言ってしまったか。


「…裕翔? なに固まってんの」


「…っと。わりわり、冗談だよな!」


リクちゃんの方がからかうの、珍しいな…と、続ける裕翔。


特に、冗談のつもりはなかったのだが。


「冗談? …なんで」


「…まじかぁ」


リクちゃんさぁ…と、なぜか裕翔に呆れられた。


なぜだ。


俺が裕翔に呆れることはあっても、裕翔が俺に呆れるなんてこと…。


不服。


「何がそんなにおかしいんだよ」


「いやいや、リクさん。そんな”不服です”みたいな目で見られてもですね…」


「いいから。何がひっかかったのか、教えろ」


「おう、的…。えーとだな」


コホン。なんて、わざとらしく咳払いなんかしやがって。


芝居くさいし、胡散くさい。


「まあ、その…。 ”ホット”ってさ、”セクシー”って意味」


ほらまた下らな…


ん?


「…え」


「うん…まあほら、なんだ。暑苦しいって、言いたかったんだよ…な?」


……間違えた!!!


「いやいやだって、ホットって! 暑いって意味…じゃん!!」


「いやいやまあ、そう…なんだけど!!」


「…それに、ほら、別に間違ってないじゃん! 裕翔、エッチな人好きだし」


「それセクシーなの俺じゃなくね?」


リクちゃんはまだお子様ですね〜…。


あ?


カチン。


「…子供じゃねえし! 裕翔のバーカ!!」


「ほら、その語彙がもうガキ。鏡見ろやバーカ!」


「バーカ!!」


「バーカ!!」


「「バーーーカ!!」」



…強いていうなら。


どちらも、互いに勝るとも劣らない「バカ」であった。





「え待って、リクちゃん今何時?」


「は? 今は…」


スマホの時刻表示、 ”9:31”。


「……。リクちゃん、これってまさか…」


「…、だね」


「……」


「……」


お互いに見つめ合うこと、数秒。


──二人は、走った。





『うおおおお急げええええ!!!』


後先考えず、我先に全速力で坂道を駆け上がっていく、裕翔。



『バカ、俺の自転車漕げよ! …俺後ろに乗るから!!』


建設的な提案をしているように見えて、ニケツ&ちゃっかり自分だけ楽しようとするリク。



やはり、両者共に…超がつくほどの、「バカ」なのであった。

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バカ二人、最寄りにて。 求導者 @massaonakimi

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