第9話 上昇

 モンスターを薙ぎ払う。集団で覆い被さられ、皮膚をちぎられそうになれば頭を掴み握り潰す。

 蹴りをゴブリン型の胸に叩きつけて、吹き飛ばす。

 そうしているうちにモンスターが警戒を始める。

「この人間は何かおかしいぞ」と理解し始め、陣形を整えようと画策するが、そうはさせないのが神外だった。

 神外はとにかく目についたモンスターを片っ端から力の限り破壊し尽くした。

 スライム型には、身体に腕を突っ込み核を無理やり引きちぎり、握り砕く。砕けた核をゴブリンの首に突き刺して、傷口に手を突っ込んで引きちぎる。

 そうしながら第2層を荒らし尽くしていく。

 床にはモンスターの死骸が転がって、モンスターは死んでから一定時間が経過すると光の粒子になって消える特性があるから、第2層は常に明るかった。

 振られるダイスはその逆光で黒くなる。

 6・1・4。6×4=24。つまり、+24の強化。

 先程よりは強くなったことに安堵しながらも、やはり低い強化値に半分がっかり。

 +24の身体強化を施し、ゴブリンの頭を地面に叩きつける。そうしていくと、ウィッチという全身に呪文が刻まれた赤い鬼が現れる。


「狂化のステージ2が発生したか」


 ●ヤバ

 ●ステージ2初めて見た!

 ●(さすがに死ぬよな……?)

 ●おわりだね

 ●さようなら、あなたの配信楽しかったよ


 ステージというのは、いわゆるレベルを表す。

 先程までの大量発生はステージ1で、ステージ2になると、モンスターの種類が代わり、通常であれば一方的に蹂躙されて死に至る。

 3分が経つと、〈スリーダイス〉再発動。


「お」


 6・5・6。+180の身体強化を施した。

 ここにきてこんなに良い目が出るとなると後が怖い。

 ウィッチを殴り飛ばし、周囲に固まっていたモンスターたちを蹴り飛ばす。壁に押し付けられればその腕を掴み、細く引き裂いて首を絞め殺す。

 ゴーレム型の強力なモンスターが現れれば中にある核を蹴りで砕き潰し、その破片をゴブリン型に投げつける。

 ごぎり、と音を立てて崩れ落ちる。


 ●つよすぎる

 ●もともと強いのに+180も強力されたら誰も敵わなくなるのは当然のことだね

 ●この人なんでこんな強いの?

 ●人類初の単身ステージ2のクリア来るか?

 ●この出来事って教科書に名前が載るのかな

 ●デビュー2日目で飛ばしすぎている

 ●もう好きに頑張れ


 そうしていると狂化が収まった。

 光の粒子も消え終えると、また薄暗い水辺に逆戻り。


 ●あっさりとステージ2をクリアするな!

 ●アリの巣穴に人間が潜り込んだ感じ

 ●人間って強けりゃ良いってもんでもないんだな


 第2層のモンスターも全て狩り尽くしてしまったらしい。

 第3層に続く階段を見つけたので、向かおうとすると、そこで背後から攻撃を食らう。

 モンスターからの攻撃かも思い振り返ってみると、そこには攻略者がいた。

 オープスのカメラにガムテープが貼り付けてある。


「俺の異能〈略奪〉でお前のその異能を奪ってやる」

「…………」

「へへへ、怖くて文句も出ねぇか。俺はいま〈炎弾〉〈水弾〉〈土弾〉〈肉体強化〉の異能を持っているぜ。そこでお前の〈スリーダイス〉とやらよ! 俺の見立てじゃ、+1でも通常の+1000くらいはあると見たね!」

「…………じゃ、一旦やるよ。俺の異能」

「マジか……!?」

「そんで、戦おう」

「あ……?」

「何が目的なのか……何が言いたいのか、君は頭がマヌケだから。そういうのが全く分からんが……とにかく、俺の事を『侮辱』した事だけは分かるから」

「なんだ……!? まぁいいや、〈略奪〉!! これでお前の〈スリーダイス〉は俺のもんだぜ!!」


 ダイスが振られる。4・2・6。+48の強化。

〈略奪〉の男は地面を踏み締める。少しだけの強化だった。男は「あれっ、全然つよくなんない」と思いながら、前を見る。

 目の前に神外の拳が迫っていた。男は逃げようとするが、頭を後ろからがっしりと抑えられていた。

 そしてそのまま、殴打。


「……おっ。返ってきた。なるほど、打ち負かすと返ってくるのか。+48も強化して、どうしてそんなに弱いんだ……? 人として未成熟の屑だからか……?」


 ●お前無能力でもつよいのか!

 ●あの男は何がしたかったんですかね

 ●急に出てきて即散るの路端のお花みたいで儚い


「第3層に行きます」

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Bossa Nova 蟹谷梅次 @xxx_neo

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