第5話 親子

 帰宅してすぐに「祖母」に呼ばれた。リビングで、ダンジョン攻略者としての配信の切り抜きを見せられる。


「どうして勝手にこういう事をするのかな?」

「どうして貴女に教えてやる必要なんてのがあるんだ」

「私は貴方の祖母です」

「形式に拘っているのか。ダンジョン攻略者になる為の講習代も登録代もアルバイトで稼いだものだし、学費に至っては俺の両親が遺した金だ。俺の苗字は藤村ではなく多羅尾だし。貴女はあくまで俺を拾っただけで、母親ではないし、祖母でもない。それでもあくまで自分は祖母だと主張するのなら……たかが、形式的な立場で俺を縛ろうとするのは、それはとてもおかしい事だよ」

「どうして、そういう事を……」

「本当のことでしょ」

「私たちは家族で」

「この数年間部屋を貸していただきどうもありがとう。予定があるので、これ以上のお話はお控えいただきたい」


 祖母──藤村香苗かなえは額をおさえて、スマートフォンに手を伸ばした。そこにうつる夫婦の事を思っていた。


「日に日にあんたたちに似ていくわ〜……。あのおバカちん……ひどいことを言われたわよ〜……」


 傷ついていない訳ではなかった。

 しかし、それ以上に懐かしさがあった。

 多羅尾神内じんないと多羅尾百恵ももえ──……つまり神外の両親は香苗の教え子だった。

 神内はよく香苗に対して噛み付いていて、その頃いまより酷いことを言われたりもした。

 百恵がどうしてあんな男に惚れたのか同じ女としてわからないものだったが……。


「ううむ……祖母にすらなれないのは、やはりつらいなぁ……」

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