第3話 兄弟

 翌日、神外は学校に行った。

 教室につくと自分の席に座って、有線イヤホンをつけて読書をはじめた。

 これが毎朝のルーティンであった。

 読書をして、頭の中で読書感想文を構築しながら昼まで過ごし、そしてまた昼休みは読書をして、頭の中で読書感想文を構築しながら放課後まで過ごす。

 そういう日々を送っていた。

 1時間目、2時間目、3時間目、4時間目……。

 そう過ごして、昼休み。

 後輩に話しかけられた。


「ね、多羅尾先輩、昨日配信しましたよね」

「どうしてそういう事を君に言ってやらなくてはいけないんだ。俺と君は関係なんかないのに。どうして?」

「関係ない? 先輩、僕の兄だって忘れてない?」

「兄? じゃ、君は俺の弟か。嘘を言う。俺に家族は居ない。兄弟ならばなおさらだ」


 後輩・藤村ふじむら千尋ちひろはため息をついた。


「あんたを拾った家の名前を思い出せ」

「藤村」

「僕の名前は?」

「知らん」


 生徒手帳を投げつけてやると、そこには藤村千尋とある。


「なるほど、これではっきりした」

「なんで毎朝毎晩顔をあわせてるのに覚えてないんだ」

「君たちは俺の家族ではないからだ。家族というのは愛のあるものだと記憶している。俺は家族がいたことがない。俺を愛してくれる人間こそが俺の家族なんだ。でも、俺を愛してくれる人間など、何処を探しても見つからない」

「あんたヘリコプターみたいだ」

「なに?」

「上から見るばかり」


 千尋は神外から生徒手帳をふんだくる。

 神外は眉間にしわを寄せた。


「配信しましたよね」


 千尋はまた言った。


「だからなんだ」

「いま切り抜きがSNSで投稿されてちっちゃく話題になってるんですよ。通常の倍の速度でダンジョンを攻略した若き新星って言うんで……」

「それがどうした」

「どうしたって」

「俺を見る人が増えればもしかしたら俺を愛してくれる人が現れるかもしれない。俺はそれが待ち遠しい。俺は愛されたい。ひとりは悲しくて、つめたい。だから愛されて、家族がほしい」

「僕じゃいけないのか?」

「君が? 何故?」

「…………」

「無理だろ。君は俺を愛してない」

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