Bossa Nova

蟹谷梅次

第1話 枯渇

 あんまり厄介な人間にはなりたくない。

 しかし、どうにも世界が気に食わない。

 周囲の人間が何をどう考えているかわからない。

 自分の事をどう見えいるのかもわからない。

 もしかしたら自分などという人間の事などは見てくれていないのかもしれない。

 だとしたらどうということは無い。

 そんな自分も気に食わない。

 多羅尾たらお神外じんがいは神ではない。

 名は体を表すというけれど、自分こそがまさにそれの究極系だと思う。神外はただひとりの人間でしかない。

 もし自分が神になれるのだとしたら、それはまさしく異世界上等のファンタジーだと思う。

 しかし、そんなファンタジーが現実に起こった。

 西暦2020年、世界中にダンジョンというのが現れた。

 ダンジョンではモンスターと呼ばれるのが現れる。

 モンスターは魔法のような特別な能力で人を殺す。

 モンスターはダンジョンから現れて、ダンジョンを閉じない限り、モンスターは現れ続ける。

 神外は神ではない。

 しかし、神になれるような力を手に入れた。

 ダンジョンのある現代の地球に適応した人類は異能というものに目覚め、モンスターを狩ることを始めた。

 民間人が凶悪な生物に立ち向かうのはおかしな話だった。

 政府によりすぐに土台が形成され、現代に適応した民間人は「ダンジョン攻略者」という名を手に入れた。

 ダンジョン攻略者の行うことは、名のとおりで、ダンジョンを攻略することだった。つまり、攻略というのは「破壊」と同意語である。

 ダンジョンを「攻略」した攻略者には金銭が支払われた。

 1回の攻略で20万円の報酬が発生するのだとか。


(俺も攻略者になれば誰かに愛されるのか)


 神外は家族というものを知らなかった。

 彼の両親は幼い頃に心中で亡くなっており、神外だけが生き残った。

 親戚に拾われてからも、根暗な性格が祟って、神外を家族だと思うものはひとりもいなかった。

 神外も誰かを家族だと思ったことはなかった。

神外は家族がほしかった。ただ、無条件に愛してくれる人間を心の底から求めていた。

 もしそんな人間がいるのだとしたら。


(それこそおかしな話か……)

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